「やめらんないね、花火だけは」「夏休みに捧げた講師に、乾杯」「君と僕と花火と」――。これらの広告コピーを作った電通所属のコピーライターの名前は「AICO(アイコ)」。ただし人間ではなく正体はAI。電通が今秋の実用化を目指し開発している、広告コピーの自動生成システムである。

数万の広告コピーを自動生成

 仕組みはこうだ。人間がシステムにキーワードを入力すると、自然言語処理機能を備えたAIが学習用データベースを基に関連する単語やフレーズを検索し、日本語として正しい配列や意味になるよう並べ替えて複数の広告コピーを自動生成する。日本語として正しいだけでなく、単語や文節を倒置したり句読点や感嘆詞をちりばめたりと、印象的な文章になるように工夫もする。

図 商品やキーワードに対して広告コピーを自動生成する電通の「アイコ」
図 商品やキーワードに対して広告コピーを自動生成する電通の「アイコ」
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 一度に生成できる広告コピーの数は数百~数万個。人間のコピーライターではとても不可能な数だ。

 アイコは電通と静岡大学情報学部の狩野芳伸准教授の研究室などが共同開発した。狩野准教授は大学入試の自動解答を目標とするプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」などに携わった実績を持つ。学習用データベースには教師用データとして電通のコピーライターが書き下ろした広告コピーや狩野研究室が用意した言語データを格納している。今後は電通が過去に作った広告コピーも投入し、アイコの精度を高める。

創造する仕事もAIが担う

 進化したAIが人間の職を奪い、人間に残されるのは創造性を発揮できる仕事だけ――。AIの能力が人間の知性を上回る「シンギュラリティ(技術的特異点)」にからんで、よく交わされる議論である。アイコは創造すらAIが担う未来を予感させる点が興味深い。

 「クリエーティブな分野でAIの活用を進めたい」。広告コピー生成システムを開発する電通のデータ・テクノロジーセンターの福田宏幸氏は語る。AIによる広告コピーの自動生成システムを開発する構想が持ち上がったのは2015年12月ごろ。電通は2016年10月の「新聞広告の日」に合わせて、顧客である新聞社の自社広告向けにAIで作った広告コピーを提案した。新聞社はAIコピーが掲載基準を満たすと判断して掲載を決定。新聞広告に掲載できるまでAIの水準が高められたことから、電通は人間の補助として十分な品質を保てると考え、2016年12月に開発を正式に始めた。