長らく米Intelの「Xeon」一強状態が続いていたサーバープロセッサ市場に、大混戦の気配が漂い始めた。爆発的な成長が見込まれるAI(人工知能)のワークロードを巡る、「CPU」「GPU」「FPGA」「AI専用チップ」の4種類による「異種格闘技戦」だ。

 2017年8月20~22日に米シリコンバレーで開催されたプロセッサのカンファレンス「Hot Chips 29」でも、ディープラーニング(深層学習)に特化したサーバープロセッサに関する発表が相次いだ。同カンファレンスの講演内容に基づき、サーバープロセッサを巡る熱い戦いを5回に渡って解説する(写真1)。

写真1●Hot Chips 29の会場となったクパチーノのデアンザカレッジ
写真1●Hot Chips 29の会場となったクパチーノのデアンザカレッジ
カンファレンス初日の「皆既日食休憩」で空を眺める参加者
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 サーバープロセッサ市場では現在、これまでの10年間には見られなかったような激変が起こっている。それを象徴するのが、王者Intelの動きだ。

 現在のIntelはサーバー用プロセッサとして、主力のXeonだけでなく、2015年に買収した米AlteraのFPGAである「Stratix 10」や2016年に買収した米Nervana SystemsのAI専用チップ、ディープラーニング用の回路を追加した「Xeon Phi」プロセッサである「Knights Mill(開発コード名)」というアーキテクチャが異なる三つの製品を、市場に投入しようとしている()。

表●米Intelのサーバー用製品ラインナップ
ジャンル製品名用途状況
CPUXeon汎用2017年8月に最新製品「Xeon Scalable」を発売
CPUItanium汎用最後の新製品「Kittson」が2017年5月に発売
CPUXeon PhiHPC/AIAIに特化したKnights Millを2017年内に出荷予定
FPGAStratixAIなどMicrosoftがAIプラットフォーム「BrainWave」に採用
AI専用チップNervanaAI2017年中の出荷予定

 Intelの過去10年の歩みを考えると、同社がXeon以外のサーバープロセッサを3種類も市場に投入しようとしていること自体が、大きな事件なのだ。

Xeon一本槍だったIntelが方針転換

 Intelは2006年に「Coreマイクロアーキテクチャ」を採用した64ビットXeonプロセッサを製品化して以来、ハイエンドからローエンドまでのほとんどのサーバーをXeonでカバーしてきた。それまでのIntelは、ハイエンドサーバーは「Itanium」、それより下のクラスのサーバーはXeonでカバーする方針を掲げていた。

 Xeonに専念したIntelの戦略は過去10年間、大成功を収めた。2006年当時、x86サーバープロセッサ市場では、Xeonに先行して64ビット化を果たした「Opteron」を擁する米AMD(Advanced Micro Devices)が22.1%のシェアを有していた(米Mercury Research調べ、2006年第1四半期時点)。「Amazon EC2」の仮想CPU「ECU」の性能が、「2007年版のXeonまたはOpteron相当」と表現されていたことに、当時のOpteronの勢いがしのばれる。

 しかし64ビット化したXeonは、Opteronの攻勢をはね除けただけでなく、ハイエンド市場でも米Sun Microsystems(当時)の「SPARC」や米IBMの「POWER」からも顧客を奪取。10年後の2015年には、Intelはサーバープロセッサ市場で99.2%(数量ベース)ものシェアを得るまでになった(米IDC調べ)。同時にサーバーだけでなくストレージやネットワークスイッチなどでもXeonが採用されるようになり、データセンターはまさにXeon一色で染まった。

 そのIntelが現在、ここ10年のXeon一本槍の方針を大転換させている。きっかけとなったのは、ディープラーニング(深層学習)の台頭だ。ディープラーニングにおける学習や推論の処理をCPU以外のプロセッサが担い始めていることが、Intelの危機感を呼び覚ました。