雑貨店の東急ハンズは2017年9月末をめどに、社内の全システムをパブリッククラウドに移行する。ネットベンチャーなどを除けば、全システムをパブリッククラウドで運用する企業は非常に珍しい。売上高は約1000億円で従業員数は約3000人、国内外に合計72店舗を展開する同社の規模を考えると、国内の初事例と言ってよい。

 小売業の基幹システムであるマーチャンダイジング(MD)システム、POSサーバー、会計システム、人事システムなど。これらを米アマゾン・ウェブ・サービスの「Amazon Web Services(AWS)」で稼働させる。メールシステムやスケジュール管理システム、ファイルサーバーについては米グーグルの「G Suite」を利用した。既に大半のシステムをパブリッククラウド上で稼働しており、2017年9月末に、自社データセンター内にある最後のサーバー移行を完了させる予定だ。

 完全クラウド化によって東急ハンズが手にしたメリットは大きい。最大の利点は、パブリッククラウドに次々と投入される最新技術の恩恵をすぐに取り入れることができるようになった点だ。これにより、集計・分析処理の高速化、バーゲン時のアクセス急増に対するシステムの自動拡張、オンプレミス(自社運用)ではコスト的に不可能なBCP(事業継続計画)対策などを既に実現した。

 「エンタープライズシステムは実績のある技術を使って構築すべきという考え方は間違っている。最新のインターネットテクノロジーを使ったほうが絶対によい」。一連のプロジェクトを統括した長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長はこう言い切る。

写真●東急ハンズの長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長
写真●東急ハンズの長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長
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 現時点では、100%クラウド化を実現する東急ハンズは“異端”だが、将来的に全てのシステムをパブリッククラウド上に移すことを視野に入れている企業は多い。そのような企業にとって、東急ハンズの事例は大いに参考になる。

 東急ハンズはいかにして100%クラウド化を実現することができたのか。同社の事例を分析すると、要諦は「システムアーキテクチャー刷新」「人材育成」「明確な方針策定」の3点にある。