テクノロジーで農業を変革する「AgTech(アグテック)」。AgTechの本場である米国のAgTechと、「アグリテック」とも呼ばれている日本のそれとを比較すると、その様相はかなり異なる。日本と米国は何が異なるのか。第3回の今回は、「農業ドローンの形状が違う」「農業ドローン開発会社の経歴が違う」「農業ドローンのライバルが違う」の三つのポイントを解説しよう()。

表●日本のアグリテックと米国のAgTech、どこが違う?
違うポイント内容
その1AgTechの牽引役が違う
その2農業ロボットの開発状況が違う
その3農業ドローンの形状が違う(今回)
その4農業ドローン開発会社の経歴が違う(今回)
その5農業ドローンのライバルが違う(今回)

農業ドローンの形状が違う

 日本で農業ドローンというと、最大手の農機メーカーであるクボタが開発意向を表明した「マルチローター機」や、ヤマハ発動機が1980年代から販売する産業用無人ヘリコプターの印象が強い。ヤマハ発動機は2017年10月に新たに農業用のマルチローター機を発売する予定でもある。中国のDJIが日本で2017年5月から販売を開始した農業ドローンもマルチローター機だ(写真1)。

写真1●中国DJIの農薬散布用ドローン「AGRAS MG-1」
写真1●中国DJIの農薬散布用ドローン「AGRAS MG-1」
出所:中国DJI
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 一方の米国では、農業ドローンとして固定翼機にも期待が集まっている。固定翼機はマルチローター機に比べて飛行範囲が広く、飛行時の姿勢も安定しているとされるためだ。用途も日本の場合は農薬散布が一般的だが、米国の農業ドローンに期待されるのは、航空写真など農場の情報収集だ。

 米国の農場は面積が日本に比べて圧倒的に広い。そのため農場の情報を取得するのがなかなか容易ではない。自動車で農場を巡回していては時間がかかって仕方がないためだ。そこで農業ドローンを使って、農場の情報収集をしようというニーズが生まれている。農場が広いが故に、マルチローター機よりも飛行範囲が広い固定翼機が向いていると判断されるのだ。

 固定翼機の農業ドローンを開発するスタートアップとしては、米PrecisionHawkや米Honeycomb、米Sentera、米AgEagle Aerial Systemsなどがある。フランスのドローンメーカーであるParrot SAが買収したスイスのsenseFly SAも、固定翼機を販売している。

農業ドローン開発会社の経歴が違う

 クボタやヤマハ発動機など、従来から農業分野で活躍する大企業が農業ドローンの取り組みを推進する日本と比べると、米国の農業ドローンは開発会社も経歴もユニークだ。興味深いのは、2017年後半に固定翼機の農業ドローン「Quantix」を出荷する予定の米AeroVironmentだ(写真2)。

写真2●米AeroVironmentの農業ドローン「Quantix」
写真2●米AeroVironmentの農業ドローン「Quantix」
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 ロサンゼルス近郊のシミバレー市に本社を構えるAeroVironment社は、実は軍用ドローンの大手だ。同社のDirector of SalesであるMark Dufau氏は「米軍向けのドローン開発を過去25年間手がけてきた」という。同社として初めてとなる民生用ドローンとして、農業用のQuantixを開発した。戦場から農場へとドローンが転用されようとしているのが、米国市場なのである。

固定翼機で最高時速は毎時64km

 Quantixは4個のプロペラを備えた固定翼機で、マルチローター機のように垂直方向に離着陸する。上昇すると機体の姿勢を修正して水平飛行する。最高速度は40マイル(約64km)/時で、最大45分間の飛行が可能。1回の飛行で400エーカー(約161ha)の農地を撮影できる。

 離陸、飛行、着陸時の操縦はすべて自動化している。飛行計画などはAndroid用アプリケーションを使って設定する。米FAAの規制に準拠し、対地高度を400フィート(約122m)に制限したり、オペレーターの有視界内のみを飛行するよう制限したりする機能も搭載している。