テクノロジーで農業を変革する「AgTech(アグテック)」。AgTechの本場である米国のAgTechと、「アグリテック」とも呼ばれている日本のそれと比較すると、その様相はかなり異なる。日本と米国は何が異なるのか。第2回の今回は、「農業ロボットの開発状況が違う」を紹介しよう()。

表●日本のアグリテックと米国のAgTech、どこが違う?
違うポイント内容
その1AgTechの牽引役が違う
その2農業ロボットの開発状況が違う(今回)

米国が先行する雑草駆除ロボット開発

 米国のAgTechが日本と比べて進んでいるポイントの一つに、米国では「雑草などの駆除を自動化するロボット」が既に実現していることが挙げられる。先駆者がシリコンバレーに本拠を置くAgTechスタートアップ、米Blue River Technologyだ。

 Blue River Technologyは2013年に、画像認識によって生育の悪いレタスの苗を見つけ出し、生育の悪い苗にだけ除草剤をスプレーすることで、レタスの間引き作業を自動化するロボット「LettuceBot」を開発している(写真1)。

写真1●米Blue River Technologyの「LettuceBot」
写真1●米Blue River Technologyの「LettuceBot」
出所:米Blue River Technology
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 トラクターの後部に取り付けた15台の装置(写真2)には、それぞれ2台のカメラと1個の除草剤スプレー、画像認識用のコンピュータを搭載する。装置には1台目のカメラ、除草剤スプレー、2台目のカメラの順番でそれぞれが取り付けられていて、トラクターを使ってレタスの苗の上をこの装置に通過させる。

写真2●LettuceBotのカメラ部分
写真2●LettuceBotのカメラ部分
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 そうすると、1台目のカメラで「苗の生育状況」を識別すると共に「苗の場所」を特定。その苗の生育状況が悪い場合に、スプレーの照準をその苗にだけ合わせて、ピンポイントで除草剤を噴射する。2台目のカメラは除草剤の噴射結果の確認に使用する。トラクターはレタス畑を4. 5マイル/時(約7. 2km/時)の速度で移動し、毎分5000本の苗をチェックできるという。

 画像認識に使用するカメラには、米Point Grey Research社の産業用小型カメラを採用。レタスの苗を識別する画像認識技術は、教師あり機械学習の一種であるSVM(Support VectorMachine)を用いた。

既に全米レタス生産の10%で間引き作業が自動化

 同社のJorgeHeraud氏(写真3)は「画像認識技術とロボティクスを活用することで、除草剤(農薬)使用量の9割を削減することが当社のゴールだ」と語る。

写真3●Blue River Technology CEOのJorge Heraud氏
写真3●Blue River Technology CEOのJorge Heraud氏
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 同社はLettuce Botを、カリフォルニア州とアリゾナ州のレタス農家に1エーカー(約4000平方メートル)当たり150ドルという料金で貸し出している。カリフォルニア州とアリゾナ州は米国でも特にレタスの栽培が盛んな場所で、両州だけで全米のレタスの9割以上を生産しているという。「今では全米のレタスの10%が、LettuceBotを使用する農家によって生産されている」(Heraud氏)ほどだ。

 これまでレタス農家は間引き作業を人手に頼っており、「違法移民を採用するケースも少なくない」(同)のが実情だった。1エーカー当たり150ドルというLettuceBotのレンタル料金は、人手による間引き作業の費用よりも20%ほど高額だと言うが、「LettuceBotの方が人間よりも正確に間引き作業を実行できることに加えて、農家にとってコンプライアンス対策になる」(同)ことから事業は好調だという。