テクノロジーで農業を変革する「AgTech(アグテック)」の本場と言えば、世界有数の農業国でもある米国だ。ベンチャーキャピタル(VC)から資金を調達したAgTechスタートアップが、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、ロボット技術で農業を変えようと企む。

 日本における同種の取り組みは「アグリテック(AgriTech)」と呼ばれることが多い。米国のAgTechと日本のアグリテックとを比較すると、その様相が大きく異なることが分かる。本特集では米国のAgTechと日本のアグリテックが異なるポイントを、4回に分けて解説する。

農場見学の行き先に驚愕

 「農場見学の行き先が、まさか大麻の『植物工場』だとは思わなかった…」。植物栽培用の特殊フイルムを開発する日本企業、メビオールの吉岡浩副社長は、米カリフォルニア州サリナス市で開催された「AgTech Summit」の会場で、驚きの体験を語った(写真1)。

写真1●AgTech Summitに出展したメビオールの吉岡浩副社長
写真1●AgTech Summitに出展したメビオールの吉岡浩副社長
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 AgTech Summitは、米国の出版大手であるForbes Mediaが毎年夏にサリナス市で開催しているAgTechのカンファレンスだ。今年は農場経営者やAgTechスタートアップ、AgTech専門のベンチャーキャピタル(VC)など600人以上が参加した(写真2)。シリコンバレーから南に自動車で1時間ほどの距離にあるサリナス市は、全米有数の農業生産地であるカリフォルニア州の中でも特に野菜の生産が盛んで「アメリカのサラダボウル」と呼ばれている。

写真2●AgTech Summitの会場風景
写真2●AgTech Summitの会場風景
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 AgTech Summitは2日間のカンファレンスだが、開催前日には招待者限定の「ファームツアー(農場見学ツアー)」があった。Forbesの招きでAgTech Summitに出展することになったメビオールの吉岡副社長がファームツアーに参加したところ、行き先が大麻(カンナビス、マリファナ)を栽培する植物工場だったため、大いに驚いたのだという。

 実はカリフォルニア州では2016年11月の大統領選挙と同時に実施された住民投票で、娯楽用大麻が合法化した。既に米国では8州とワシントンD.C.で、娯楽用大麻が合法化されている。医療用大麻が合法化されている州はさらに多く、28州とワシントンD.C.で合法である。大麻の栽培と吸引用加工品の生産は、急成長が見込める産業であり、「カンナビスインダストリー」や「マリファナインダストリー」などと呼ばれ始めている。

 2017年6月には、医療用大麻のメーカーであるカナダのMedReleafがトロント証券取引所に株式を上場した。米国のメディアはこれを「カンナビスインダストリーで初めてのIPO(新規株式公開)」と表現している。当然ながら数多くの「カンナビススタートアップ」も誕生している。AgTech Summitのファームツアーが向かった先も、そうしたスタートアップの1社である米Grupo Florがサリナス市周辺に建設した植物工場だった。

大麻工場の「豪華さ」にも驚く

 メビオールの吉岡副社長が目を見張ったのは、大麻の植物工場の施設が豪華だったことだ。Grupo Florの施設には、大麻を栽培する建物や、摘み取った大麻の「花」を加工する建物などが並んでいた。その中でも吉岡副社長は、「大麻を栽培する建物の中で、電力を大量消費するナトリウムランプが多数使われていた」ことに着目した。なぜなら「日本の植物工場ではナトリウムランプはあまり使われていない。レタスやトマトの栽培でナトリウムランプを使っては採算が合わないからだ」(吉岡副社長)。