デジタル技術を活用した計画的かつ創発的な変革である「デジタル変革(デジタルトランスフォーメーション)」に挑む企業が相次ぎ登場している。この連載では国内外の一流企業の事例を基に、デジタル変革を進めるうえでの要諦を探っている。

 前回はインドのアジアンペインツ、独アルディ、仏BNPパリバの事例を通じて、デジタル変革の概要と、3社に共通する定石を紹介した。今回は「価値創造サイクル」という考え方を導入して、変革の方法について具体的に解説する。

●今回取り上げる企業
  • ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo & Co.)
  • セブン-イレブン・ジャパン

再設計や創造で価値連鎖を変革し続ける

 変革の具体的な方法を説明する前に、そもそも「変革」とは何か、ITを活用した変革とはどのようなものを指すのかについて、もう少し詳しく見ていく。

 前回、企業の役割は顧客に対して様々な「価値」を提供することだと説明した。企業は製造や販売、物流、営業、マーケティングなど様々な業務プロセスで価値(バリュー)を付加して、最終的に製品やサービスとして顧客に提供する価値を高めていく。この一連の活動を価値連鎖(バリューチェーン)と呼ぶ。

 事業の変革とは、顧客に提供する価値をより高めたり、新たな価値を生み出したりするために、価値連鎖に関わる様々な要素を変えていくことを指す。価値連鎖のアウトプットである「製品・サービス」の変革、価値連鎖を構成する「業務プロセス」の変革、価値連鎖の構造そのものである「ビジネスモデル」の変革などが挙げられる。

 変革のレベルは大きく3つある。既存の機能や実現方法を基本的には変えずに、漸進的に環境への適応を目指す「改善」、既存の機能や実現方法を抜本的に見直し、断続的に再設計する「再設計」、これまでにない新たな機能を新たな方法で実現する「創造」である。

 この連載の主題であるデジタルトランスフォーメーションの「トランスフォーメーション」とは、再設計や創造のレベルの変革を意味する。顧客にとって新たな価値を創出し、企業として持続的成長を達成するために、再設計や創造によって価値連鎖を変革し続けることを指す。