Q

レギュラトリー・サンドボックスとはなんですか。

A

実証による政策形成を実現するため本人の明確な同意のもと、期間や人数を限定した対象者を相手に、既存の規制が適用されない実験場を設け、新たなサービスの有用性などを試し、その結果をもとに規制を改善していく枠組みです。FinTech推進のため英国で生まれた枠組みを参考に、日本ではFinTechに限らない分野での展開を予定しています。

 レギュラトリー・サンドボックスは、英国のFCA(金融行為規制機構)が2014年10月にスタートした「Project Innovate」の一環として導入された仕組みです。まず、事業者側に新たなビジネスアイデアを提示させ、そのビジネスアイデアに抵触する可能性のある規制の懸念点と改善策を記載した申請書を提出させます。FCAは内容を審査し、適用基準を満たしたプロジェクトにつき、事業者との間で実験の詳細やKPI(重要業績指標)について合意します。

 実験の内容はFCAにモニタリングされ、実験結果を踏まえて規制の改善に着手するかどうかを判断することになります。規制のPDCAを的確に回していくことで、過剰規制を刈り込み、目的に照らした規制にフォーカスするというスマートレギュレーションという活動の系譜を引いており、シンガポールやオーストラリア、香港など、FinTechに力を入れる多くの国々が、自社の規制事情に合せつつ、追随している規制緩和の枠組みといえます。

 シンガポールが2015年6月に制度導入を宣言した後、日本でも制度導入を検討してはどうかという声がFinTechコミュニティから挙がりました。しかし、形式論に流れがちなフレームワークよりも、重要なことはイノベーションが現に推進されることであるというロジックのもとで、個別のFinTech事案に対して金融庁が相談窓口を一本化して対応する「FinTech サポートデスク」を設置するという形で、このアジェンダは幕を閉じたかに見えました。

 しかしながら、サポートデスクは現行の規制・監督の枠組みのもとで、金融庁内でのFinTech関連の照会に対する窓口として機能するのみで、レギュラトリー・サンドボックスとはまったく性質を異にします。経済産業省が事務局を務めるFinTech検討会合では、FinTechを推進するための実験を促進するフレームワークとして、レギュラトリー・サンドボックスの導入を強く支持し、2017年5月に公表された「FinTechビジョン」において紙幅を割いて同制度の導入を提言しました。

 他方、各国のレギュラトリー・サンドボックスは、行政庁がリスクベースで実験を評価し、一定のリスク軽減策をもって既存の規制運用とは異なる運用を認める枠組みで、十分な行政リソースと高度な行政能力を必要とします。経済規模の割に必ずしも十分な行政リソースを金融業に割くことができていない日本では、他国のサンドボックスの枠組みをそのまま導入することは難しいのではないかという諦めに近い意見も聞かれていたところでした。