Q
イノベーションは既存のビジネスを破壊(ディスラプト)すると聞きます。FinTechは既存の金融業界を「破壊」するのでしょうか。
A
これまで他の事業領域で起こった事例を見る限り、一定の影響が出るのは避けられないでしょう。既存の金融機関は自らの事業モデルをどう変革していくかが問われています。
新しい技術や販売手法などをてこに新たな顧客や市場を創造する過程で、イノベーター(革新者)が従来よりも良質なサービスを圧倒的な低価格で実現したとします。すると、既存事業者の顧客はイノベーターに流れ、旧来の市場構造に依拠していた既存事業者のビジネスモデルに重大な影響を及ぼしかねません。イノベーションが実現する過程で、創造的な破壊が起こるといわれるのはこのためです。
FinTechは、ITをフル活用した金融ビジネスの再編成をもくろむ一連の活動です。ITを駆使してコスト構造を改革することで、従来ならコストとの兼ね合いで成立しなかった、利用者にとって利便性の高いビジネスを成り立つようにした点が特徴です。その活動は当然、既存の金融業界に影響を及ぼします。
自ら創出した市場でプロダクトを磨き込み、既存市場に参入
様々な分野で起こったイノベーション事例を見ると、イノベーターは以下のような戦略を採ります。
まず、これまで既存の事業者がビジネスとして見ていなかった、またはビジネスとして注力していないニッチ領域で、低価格でサービスを開始します。ニッチ領域で新しい顧客層を創る活動なので、事業者がスタートアップ企業であまり信用力がなくても、サービスとしては成り立ちます。収益性の高いハイエンド市場に注力している既存の事業者は、こうした活動を儲からないニッチ市場でのものとして放置します。
イノベーターが新しい市場でサービスを磨き、市場をしっかりと押さえたら、主要顧客のいるアップマーケットに乗り込みます。
別の市場で一定のレピュテーション(評価)を勝ち得たイノベーターは、利便性が高く価格も手ごろなサービスを提供することで、主要顧客のいる市場でも戦うことができます。特に、既存事業者がレガシー(遺産・遺物)を捨てられず、コスト構造を変革できずにいるようならチャンスです。既存のサービスの品質や価格に不満を抱えている顧客が、イノベーターが提供するサービスになだれ込むということが起こり得ます(図)。
もっと正確にいうと、イノベーターはそうした構図になるよう、自ら創出した市場でプロダクトと信頼性を磨き込み、満を持して主要市場に参入するのです。
こうした戦略を遂行する過程で、イノベーターはオープンイノベーションの枠組みを使って既存の事業者とも連携します。連携を通じて、イノベーターは既存事業者の信用を借り、既存事業者は自らの顧客にイノベーターの技術を適用するなどして、両者はWin-Winの関係を築こうとします。