総務省の大きな後押しを受け、携帯電話市場の主役に躍り出た格安スマホ。最近では、格安スマホを手掛けるMVNO(仮想移動体通信事業者)だけでなく、携帯電話大手も「サブブランド」を立ち上げ、派手な広告や宣伝を展開する。

 だが、ここにきて状況が変わってきた。NTTドコモが2017年6月1日に「docomo with」、KDDI(au)が2017年7月14日に「auピタットプラン」と「auフラットプラン」をそれぞれ投入。格安スマホへの顧客流出に歯止めをかけるべく、本気で対策を打ってきた。

KDDI(au)は2017年7月14日に「auピタットプラン」と「auフラットプラン」を投入して格安スマホ対抗を強化。
KDDI(au)は2017年7月14日に「auピタットプラン」と「auフラットプラン」を投入して格安スマホ対抗を強化。
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 今回の新料金プランを単純な「値下げ」と捉える向きは多いが、本質は「携帯電話大手が端末と回線が一体となった現行の販売モデルからの脱却に向け、大きくかじを切った」ことにある。携帯電話大手を中心とした“エコシステム”が変わることを意味し、影響はMVNOだけでなく、販売代理店や端末メーカーにも及びそうだ。

「分離プラン」は10年前にも導入

 NTTドコモとKDDIの新料金プランでは、毎月の通信料金を下げる代わり、端末購入補助を廃止した。いわば「端末価格と通信料金の分離」であり、現行モデルからの大きな転換となる。

 実は、端末価格と通信料金を分離した料金プランは、10年前にも導入したことがあった。総務省が2007年9月、有識者会議「モバイルビジネス研究会」の議論を受け、コスト負担の透明性やユーザー間の公平性を高める目的で、端末価格と通信料金の内訳を明確化した「分離プラン」の導入を携帯電話各社に要請したためだ。2008年度までに試験的に始め、2010年に全面導入することが決まった。

 結果、それまで型落ちモデルを中心に「1円」などで販売されていた携帯電話端末が一斉に「4万円」や「5万円」に上昇。当然、端末の売れ行きは鈍り、販売台数の落ち込みは30%にも達した。

 しかし、ソフトバンク(当時はソフトバンクモバイル)だけは導入済みの割賦販売方式「新スーパーボーナス」が分離プランに相当すると主張。「端末購入補助」と言っても、実際には端末の割り引きではなく、毎月の通信料金を割り引く仕組みであり、端末価格と通信料金の内訳を明確に区別しているので問題ないとした。最終的には競合他社も追随。以降、端末価格は「実質負担額」の表記でマーケティングされるようになった。

分離プランの導入は時間の問題だった

 こうした変遷はあったものの、当時から長く続いた端末購入補助はもはや“制度疲労”を起こしつつある。なぜなら、端末購入補助を手厚くして販売競争を頑張っても、肝心の新規顧客獲得につながらず、割に合わなくなってきたからだ。

 実は、携帯電話大手は端末販売自体であまりもうけていない。端末の調達額と売上額がおおむねトントンであることは決算数値から分かる。それでも、ここ数年は大手3社ともこぞってiPhoneの販売競争を繰り広げてきた。端末の購入を契機に新たな顧客を獲得し、通信料金で稼げるからだ。このため、端末価格の全部または一部相当額を毎月の通信料金から24カ月間にわたって割り引き、販売現場ではキャッシュバックによる顧客の争奪戦も過熱した。