ソフトバンクグループが2016年12月に10億ドルの出資を発表した米ワンウェブ(OneWeb)は、900機の低軌道衛星を打ち上げ、地球全体をカバー範囲とした衛星インターネットサービスを2020年初頭までに始める計画だ。

 衛星の小型化により製造費と打ち上げ費用を抑え、飛行機などに提供している既存の衛星通信サービスより安価に提供することを目指す。顧客層として想定するのは、ブロードバンド接続サービスの恩恵を受けていない40億人の人々だ。

 ワンウェブ創業者のグレッグ・ワイラー会長は、かつて2002年にアフリカでインターネット通信サービスで起業。「アフリカの学校などに光ファイバーを敷設しようとしたが、固定網は敷設が非常に高価であることが後になって分かり、断念した」(ワイラー氏)。

 だがワイラー氏は、衛星通信の技術に出会うことで、もう一度立ち上がった。「新たな希望と機会を得ることで、人間は何度も何度も挑戦する意欲が増すものだ」(ワイラー氏)。今はワンウェブを率い、新興国を含むあらゆる地域にブロードバンド回線を提供するビジョンの実現へまい進している。

 900基の衛星を打ち上げるワンウェブの計画と、ソフトバンクの出資を受けたことによる経営への影響について、ワイラー氏に聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ


ワンウェブは2016年12月にソフトバンクからの出資を受け入れた。これは会社の経営や戦略にどのような利点があったか。

写真●米ワンウェブ創業者のグレッグ・ワイラー会長
写真●米ワンウェブ創業者のグレッグ・ワイラー会長
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 ソフトバンクは我々に資金を提供するだけでなく、ビジョンの構築に向けてお互いにエキサイティングな議論をすることで、我々をサポートしている。

 ソフトバンクは私たちに多くの質問を投げかけるが、優れた質問はチーム内で議論を喚起するだけでなく、生産性を高めるものだ。このような形で我々を支援する企業は、これまでほとんど見たことがない。

ソフトバンクグループの孫正義社長が、あなたにどのような質問をするのか。

 孫氏は技術の詳細を理解し、その応用も理解している。投資した技術の可能性を把握するため、必要とあればエンジニアリングの深い領域にも入り込む。孫氏は現在の技術で製造できる衛星システムのパフォーマンスや、それがどのように発展していくかを理解していた。

 この点は孫氏が他の投資家と大きく異なっているところだ。投資家とスタートアップ企業が真のパートナーシップを結ぶための優れた方法だと思う。

改めてワンウェブのビジョンと主要な計画を教えてほしい。ブロードバンドサービスの恩恵を受けられない40億人に向けサービスを提供するというビジョンを実現するためのロードマップは。

 最初のフェーズでは約900機の衛星を製造する。衛星通信サービスを始めるのは2019年末か2020年初頭になるだろう。

サービスの開始は900機の衛星を打ち上げた後になるのか。

 その半分以下の台数でサービスを始めることができる。徐々にカバー範囲を広げつつ、より多様なサービスを提供することになるだろう。

衛星網の構築にはどれくらいの費用がかかるのか。

 システム全体で約40億ドルと見込んでいる。

ユーザー数の見込みは。

 我々が最初に想定する顧客は、ブロードバンドを希望しながら、ブロードバンドを諦めざるを得ない人たちだ。2025年には10億人の加入者を目指したい。これは世界の固定回線ブロードバンド加入者の1.5倍に当たる。

 地球上には、市街や学校にはブロードバンド環境がある一方、住居にはブロードバンド環境が届いていない地域が幅広く存在する。こうした地域では、親は子供たちにネット経由で高度な教育を受けさせたいと願いながら、それが叶わない状況にある。ブロードバンド環境が重要だと知りながら、諦めざるを得ない。そんな地域に数十億人の人々が住んでいる。

 我々の衛星システムは、こうした地域に幅広くブロードバンドサービスを提供できる。専用の受信端末を通じてインターネットに接続することもできるし、衛星と携帯基地局をつなげば通常のスマートフォンから3Gや4Gでネットに接続することもできる。

 ブロードバンドサービスが届いていない学校や医療施設にもサービスを提供する。世界各国の難民にもサービスを直接提供できる。こうしたビジョンは孫氏とも共有している。