介護施設運営大手のSOMPOケアネクスト(旧ワタミの介護)は2017年10月までに、同社が運営する全国115カ所の有料老人ホームの浴室や各居室に複数のセンサーを導入し終える計画だ。4月にスタートした取り組みについて同社の松沢豊マーケティング部長は「入居者のプライバシーを守りつつ職員の生産性を高める効果が出ている」と話す。「節約した時間を介護の質を高めるために使える」(松沢部長)。

 設置する複数のセンサーのうち特徴的なのが尿量センサーだ。介護機器ベンチャーのトリプル・ダブリュー・ジャパンが開発。下腹部に当てた超音波センサーが膀胱にたまった尿量を測定する。

SOMPOケアネクストが高齢者施設で導入した尿量センサー
SOMPOケアネクストが高齢者施設で導入した尿量センサー
尿量センサーで入居者の排尿時期を予測(センサーと装着イメージ、タブレットの画像提供:SOMPOケアネクスト)
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 測定結果はクラウド上のサーバーに集約され、職員が持つタブレット端末に入居者一人ひとりのデータがパーセンテージで表示される。80%超など、尿量が多くたまった入居者がいるとアラート画面が出る。職員は早めにトイレに連れていくことで、失禁を未然に防げる。入居者ごとに排尿のタイミングを学習する人工知能(AI)機能も備えており、次に尿意を催すおおよその時期を予測することも可能だ。

 「排尿タイミングの予測はこれまで個々の職員の経験に委ねられていたが、職員の中には異業種から転職してきた未経験者もいる。生体情報が見える化されて、介護の質の底上げにつながってきた」。SOMPOケアネクストの松沢部長は尿量センサーの威力をこう証言する。「今後は便量を計測できるセンサーなども導入していきたい」と続ける。

 同社は過去に入浴事故を起こした苦い経験がある。再発防止に向け、浴室にはドップラーセンサーを取り付けて入浴中の体動や脈拍を把握し、浴室内での失神や浴槽内でのおぼれといった異常を検知するようにした。

 居室にはドップラーセンサーと赤外線センサー、ドアの開閉センサーなどを備え、ナースコールと連動させて室内での体調急変や徘徊などを素早く察知する仕組みも取り入れた。「安全性を重視するためとはいえ、職員が頻繁に巡回するとプライバシーを気にする入居者もいる。センサーを使えばそうした不快な思いをさせずに済む」(松沢部長)。

 同社はこうしたセンサーで集めたデータを蓄積し、ビッグデータ解析して介護の質を向上させることにつなげていく考えだ。既に同社には職員が日々の介護でどのようなサービスを提供したかという内容とともに、その後入居者がどのような状態になったかという情報が蓄積されつつあるという。

 「介護前後の変化をよりきめ細かく把握できるようになった。ビッグデータを活用して一人ひとりに最適なサービスを提供したり、カンファレンスでのエビデンスとして活用したりしていきたい」と松沢部長は意気込む。