人や自動車などの空き時間を共有するシェアリングエコノミーの波が物流業界にも及びつつある。PCやスマートフォンで受けたスポット配送の依頼を、中小の運送会社と直接マッチングさせるサービスが相次ぎ登場。長年続く多重下請け構造を揺さぶり、人手不足の突破口を開く。

 長時間労働が常態化している割に低賃金。若い人が集まらないまま働き手が高齢化していく――。日本に約6万社ある運送会社の人手不足は深刻だ。個人事業者が中心のこうした企業では、仕事の多くが大手や中堅の運送会社からの下請けで運賃の“ピンはね”は日常茶飯事。だが日本の物流網を下支えしているのは、数多くの中小運送会社だ。

 「旧態依然とした産業構造そのものを変革する」。こう語るのはネット印刷サービスを手掛けるベンチャー企業、ラクスルの松本恭攝社長だ。同社は軽貨物自動車による運送業のマッチングサービス「ハコベル」を2015年末に始めた。

巨大な仮想運送会社

 荷主企業と、運送会社や個人営業の運転手などを直接つなぐ仕組みだ。企業がPCやスマートフォンを使って荷物の種類や配送日などの配送依頼情報を提示し、運転手が仕事を選ぶ。季節によって変動しやすい荷動きに柔軟に対応しやすくする。いわばライドシェアの「Uber」や民泊の「Airbnb」に代表されるシェアリングエコノミーの物流版だ。

 ラクスルの松本社長は「現在の物流業界には、荷物を送りたい人と空いているトラック、つまり需要と供給を結びつける仕組みがない」と指摘する。ハコベルは開始から1年半で、トラック登録台数が約1650台に達した。トラックの保有台数が500台を超えると大手といわれるトラック運送業界において、ラクスルは仮想的な超大手と言える。

図 ラクスルが提供する「ハコベル」の利用イメージ
図 ラクスルが提供する「ハコベル」の利用イメージ
(画像出所:ラクスル)
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 松本社長はシェアリングエコノミーの仕組みをうまく機能させることで、「荷主と運び手、双方に利点が生じる」と話す。荷主の利点は、大量輸送を前提にしていた既存の物流網が苦手とする小口の荷物や急な配送などを頼む際にも、スムーズに運送会社を見つけられることだ。

 荷主企業は荷物の種類や配送日、運送料金などの情報をスマホやPCからラクスルのシステムに登録する。配送依頼情報はGPS(全地球測位システム)で測定した登録トラックの位置情報などを基に、最適なトラックに通知される。運送会社の運転手は、ラクスルから配られたタブレットに導入してある配車システムを使い、依頼を受託する。通知を受けたトラックが請け負えない場合は、別のトラックに通知を送る。