配達現場の負荷をできるだけ減らしながら、消費者に荷物を届ける最終段階のサービスレベルをどこまで維持できるか。最大手ヤマト運輸は「神様」に相応の負担を促し、ベンチャー企業は深夜・早朝限定の配送サービスに挑む。

 神奈川県藤沢市のJR藤沢駅から車で10分のところにあるヤマト運輸の営業所「辻堂東センター」。配達トラックが頻繁に出入りする敷地の一角から、時折、異質なクルマが走り出す。荷室に宅配ボックスのような形のロッカーを内蔵したミニバンだ。

 ヤマト運輸がディー・エヌ・エー(DeNA)と共同開発した、宅配ピンチ対策の切り札「ロボネコヤマト」の配達車だ。両社は2017年4月から約1年間の予定で、鵠沼海岸や辻堂東海岸、本鵠沼のエリアで新たな宅配サービスの実験に乗り出している。

図 ヤマト運輸とDeNAのオンデマンド宅配サービス「ロボネコヤマト」の利用イメージ
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(画像出所:ヤマト運輸、写真:陶山 勉)
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 ロボネコヤマトは荷物を消費者まで届ける「ラストワンマイル」の改革を担う。将来の無人宅配を見越して、荷物を受け取る作業に配達員が介入しない非対面方式にした。具体的には好きな場所に配達車を呼び出し、セルフ作業で荷物を受け取る。「荷物の新しい受け取り方を世に問うサービスだ」(ヤマト運輸の畠山和生情報ネットワーク戦略課長)。

 AIによる自動運転、次世代の無人宅配――。ロボネコはその名前の通り、ロボット技術を使った未来的なイメージをまとっている。実はその裏に、日本の宅配網を疲弊させている問題の解決策を世に問う狙いがあることは、意外に知られていない。

 問題とは過剰サービス問題だ。配達希望の日時を消費者が自由に選べ、愛想の良い配達員がどんなに重い荷物でも自宅の玄関まで持ってきてくれる。さらに、不在でも無料で再配達してもらえる。日本の消費者が享受してきた行き届いた宅配サービスは、一方で宅配網に無理を強いてきた。

 ITを活用して、サービスレベルや消費者の満足度を維持しつつも宅配事業者の負担を減らす。そのためにヤマト運輸とDeNAは、二つの常識破りに挑もうとしている。

顧客が車道に出向いて受け取る

 第一の常識破りは、顧客によるセルフサービスを徹底していることだ。ロボネコヤマトのサービスを使う場合、受け取り場所は事前にスマホで指定する。指定できるのは基本的に屋外で、顧客は時間通りに指定場所へ出向く必要がある。