ITサービスデザイナーは、“ぼんやりした”新規事業/サービスの企画作りを支援する。そのためのプロセスとしてデザイン思考などの手法を用いる。あいまいな企画から実証実験まで進めるために、デザイン思考をチームで推進する中心的役割を果たす。

 「OCR製品の事業が下火になっている。これから何をやっていけばよいか考えたい」。ある大手ベンダーの事業部門から、NTTデータ経営研究所の田島瑞希氏に、こう声がかかった。公共や金融系の窓口業務へのサービスを、何となくイメージしているようだった。

 田島氏は単身ベンダーに乗り込み、「かかわる人すべてに参加してもらいたい」と、検討チームの組成をリクエスト。すぐさま、事業部長をはじめ、企画、営業、開発といったふだん顔を合わせないメンバーが15人ほど集まった。田島氏は週1回開かれる検討会のファシリテーターとなった。

 検討チームのメンバーに、開発といった下流工程まで参加を要請したのには、大きな理由がある。新規事業では、企画部が立てたものを実装に移していく段階で、最初の目的や“想い”が「どんどん薄れて、曲がっていくケースが多い」(田島氏)。「開発の都合」などと言い、安易に横道に逸れないようにするには、最初から想いを共有することが重要なのだ。

 検討チームのゴールは、「こういうものを作る」という目指す“世界観”を描くこと。窓口業務はこうあるべき、というアイデア群と、それをイメージしやすいペーパープロトタイプとして4コマ漫画を作成した。続いて、これを具体化するチームを開発者3人で構成。世界観に賛同を得た顧客と共に実証実験(PoC)を実施し、ビジネス的、技術的な検証を行った。ここで田島氏は、「つい顧客のビジネスに合わせて改変してしまうところを、最初の世界観に引き戻す」“コンセプトキープ”の役割を担った。