「訪日観光だけがインバウンドではない。もっと広い視野を持ってほしい」――。ジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長は2017年7月21日、「インバウンド・ジャパン 2017」(主催:日経BP社)の講演で、留学や就労、越境EC(電子商取引)などを含めてインバウンド戦略を考えるべきだと訴えた。

ジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長
ジャパンインバウンドソリューションズの中村好明社長
(撮影:清野 泰弘、以下同じ)
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 中村社長は中国企業と日本企業の協業や、企業研修のための訪日もインバウンドとして考えるべきだと事例を交えながら説明。「ビジネスツアーの誘致などもインバウンドの大きな市場になる」(中村社長)とした。

 「インバウンド市場が縮小するといった一部の意見があるが間違いだ。市場はこれからも大きくなる」(同)とも主張した。市場拡大の理由は世界の人口が増加しているから。加えて、「アジアの新興国では圧倒的なスピードで1人当たりのGDPが増えている」(同)ため、観光や就労を目的とするアジアからのインバウンド市場は特に拡大するとした。

 中村社長はインバウンド市場の量と質の変化にも言及した。2017年の訪日外国人数は推定値で2800万人を超え、2016年比で約15%多い。この傾向が続くと訪日外国人数は2020年に約4000万人に達するとした。

 質の変化では、例えば「もともと女性の割合が高かったが、さらに高まっている」(同)。日本を複数回訪れるリピーターは、観光ツアーではなく個人旅行を選ぶ傾向が高まっているとした。個人でホテルや飛行機を手配して日本国内のツアーに参加するといった、個人旅行とツアーの複合利用も増えているという。

 中村社長はリピーターを増やすには「アクティビティーを増やさなければいけない」と訴えた。「自然や文化そのものを売り物にすると飽きられてしまう」(同)。例えば、富士山の景色だけで訪日外国人を集められると考えるのではなく、富士山の登山、山麓のトレッキングやマラソンといったアクティビティーが加わって収益になるとした。

 アクティビティーに加えるべき対象の一つに、地域の祭りがあるという。「自分たちの祭りをSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で発信し、世界(の人々)に来てもらう活動が少しずつ増えている」(同)。

SNSで分かるインバウンド需要

 続いて中村社長はインバウンド需要を探るために中国のSNSを分析した結果を紹介した。「日本は桜でブランディングしてきたが、紅葉も大きなマーケットになる」(同)。SNSで日本に関する書き込みは桜の季節に増えるが、紅葉の季節はそれを上回って増えるからだという。

 また、「まだまだ買い物したいというニーズがある」(同)ことも分析から分かった。実際に免税売り上げは対前年比で大きく伸びているとした。さらに、中国からの訪日外国人の出身地を分析すると、沿岸部の割合が減って内陸部が増えているという。「沿岸部と大都市だけに向けたマーケティングに加え、内陸部へのプレゼンテーションも大切だ」(同)。

 中村社長は日本の課題も指摘した。例えば緊急医療の不備だ。「医療通訳者がいないのは問題だ」(同)。課題解決に向け、最近ではタブレット端末を使ってインターネット経由で医療通訳をするネットサービスが登場しているという。

 災害時の情報発信などにおける外国語対応も課題という。「もったいないと思うのは地域に住んでいる外国人に協力を仰いでいないこと」(同)。英語教育の補助教師や国際交流員などと連携して訪日外国人向けの対応を考えるべきだと訴えかけた。

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