2017年7月19日、東京ビックサイトで開催された「インバウンド・ジャパン2017」(主催:日経BP社)で東日本旅客鉄道(JR東日本)の清野智会長が登壇。同社の4つの主力事業である「鉄道」「生活サービス」「IT・Suica」「鉄道車両製造」に加えて、「第5、第6の柱を作っていく必要がある」と話し、同社が力を入れているインバウンドに関する取り組みを紹介した。

東日本旅客鉄道の清野智 取締役会長
東日本旅客鉄道の清野智 取締役会長
(撮影:清野 泰弘、以下同じ)
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 講演での主な話題はJR東日本の東北地方での観光支援について。「東北は震災などの影響もあり、インバウンドの受け入れが遅れている」とし、東北観光推進機構や東北6県と一緒になって地域の魅力をPRするとした。

 清野智会長は東北地方のインバウンドの現状として「データだけ見れば完全に伸び悩んでいる」と指摘。地域ブロック別の宿泊者数のデータを取り上げて説明した。2010年に対する2016年の日本人と外国人を合わせた宿泊者数の比率が全国平均では120%なのに対し、東北では104%。外国人に限ると、全国平均が257%なのに対し東北では124%にとどまっていたという。

 同社は、東北へ観光客を誘致するために様々な取り組みを考えている。例えば、モデルコースや観光素材を海外でPRするために、観光庁と連携して海外の雑誌社などを招待している。海外に拠点も作った。例えば、シンガポールに「JAPAN RAIL CAFE」を開設し、日本の食や観光のPRをしているという。

 講演の中で清野会長は東北のインバウンドの課題とその解決策を挙げた。課題は「一体感の乏しさ」「魅力は何か」「今なお残る風評被害」「地理的に遠いイメージ」の4つだ。

 一つめの「一体感の乏しさ」は、東北の6県がそれぞれ別でプロモーションしていることを指す。海外観光客は3泊4日などで日本に訪れるため、各県が「自分の県に来てください」とPRしても難しい。清野会長は「東北6県で一緒になってプロモーションし、連携したコースを提案する」といった解決策を挙げた。

 二つめの「魅力は何か」は、PR不足を指す。東北には夏まつり、桜、もみじ、雪、スキーなど季節ごとに様々な魅力があるにもかかわらずPRがやや弱いとし、観光資源を確立して、ターゲットや商品を絞ることで戦略的なPRが必要であるとした。

 三つめの「今なお残る風評被害」は、震災に対するイメージの問題だ。東北では、韓国、香港などからの観光客がいまだ低調であるという。清野会長は、震災や原発事故の影響は極めて限定的であるなど、正確な情報を発信する必要があると指摘した。

 最後の「地理的に遠いイメージ」は、アクセスが不便と思われてしまっていること。新幹線が通り、レンタカーやバスなども充実している駅や国際空港がある仙台をゲートウェイとして強化するとした。

 清野会長は東北の観光コースの認知度を上げる取り組みとして、スマートフォン向けアプリ「DISCOVER TOHOKU JAPAN APP」に言及した。「地域が提案するコースはどのようなものがあるか」など時間やテーマに適したコースを表示したり、「お寺」「自然」などのテーマに沿った自分オリジナルのコースを作れるなどの機能があるという。

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