「訪日外国人旅行者は2010年から2016年にかけて全国平均で2.7倍に増えたが、東北地方は1.4倍にしか増えていない。東北地方ならではの施策として、防災を学べる防災ツーリズムに注力する」――。日本航空の大西賢取締役会長は2017年7月19日、「インバウンド・ジャパン 2017」(主催:日経BP社)で講演し、急増する訪日外国人旅行者を東北地方に誘客する戦略について説明した。

日本航空の大西賢取締役会長
日本航空の大西賢取締役会長
(撮影:清野 泰弘、以下同じ)
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 訪日外国人旅行者は増加の一途をたどっている。2003年に521万人だったが、2013年に1000万人を突破し、2016年に2403万人にまで伸びた。日本は次の目標として、2020年に4000万人、2030年に6000万人という数値を掲げている。こうした中で、訪日外国人旅行者の宿泊先として、地方への誘客が必要になっていると大西氏は指摘する。

 訪日外国人旅行者が増えることによる課題は、宿泊能力である。現状で宿泊施設の稼働率が70%以上を保っている地域は、東京、富士山、京都、大阪といった“ゴールデンンルート”だけである。東北地方は、最も稼働率の高い宮城県が60~65%で、宮城県以外の県は55%未満と少ない。「東北地方は宿泊能力に余力がある。東北地方を外国人旅行者の新たな旅先とする取り組みに注力したい」と大西氏は言う。

防災学習と観光をセットにして東北地方に誘客する

 2016年の宿泊施設の年平均稼働率は、全国平均が60%、東京都が79.4%、大阪府が84.1%である。現状の宿泊施設のまま2020年に外国人旅行者が4000万人へと増えた場合の年平均稼働率は、全国平均が65.7%、東京都が95.9%、大阪府が102.2%となる。東京や大阪では間に合わなくなる。

 一方で、東北地方への外国人観光客の誘致は遅れている。2010年から2016年にかけてののべ宿泊数は、全国平均で2.7倍に増えているのに対し、東北地方は1.4倍にしか増えていない。東北地方の魅力を高めることによって、現在ではゴールデンルートに集中している外国人観光客を東北地方に誘導しなければならない。

 こうした中、東北地方の外国人宿泊客を増やす施策として大西氏が挙げるプランが防災ツーリズムである。「東北地方でしか発信できないことがある。東北地方ならではの発信コンテンツとして、防災を学べる防災教育と観光をセットにした防災ツーリズムを具現化する」(大西氏)。

 現在でも活動している防災ツーリズムの例として大西氏は、三陸鉄道の「震災学習列車」、マルゴト陸前高田の「復興最前線ツアー」、住民団体の「浪江まち物語つたえ隊」「大船渡津波伝承館」「せんだい3.11メモリアル交流館」、などを挙げた。

防災ツーリズムなら東北地方の滞在時間を確保できる

 防災ツーリズムの需要は高い、と大西氏は言う。学びを得るための教育ツーリズムのひとつの形として、防災ツーリズムは位置付けられるという。「人間は潜在的に学びたいという気持ちを持っている。だから観光に学びの要素を加えれば成功する」(大西氏)。防災に力を入れて活動している東北大学などと連携し、魅力的な防災ツーリズムを実現していくという。