業種・業態を問わず、IoT(インターネット・オブ・シングズ)や人工知能(AI)といった先進ITを活用する動きが始まっている。植物工場はその一つだ。葉物野菜(葉菜類)を中心とした野菜の生産にIoTやAIを活用する「野菜テック」に乗り出す企業が相次いでいる。

 今回から3回で、野菜テックの導入に挑む2社の経営トップへのインタビューを中心に、植物工場におけるIT活用最前線を見ていく。第1回は導入編として、あまり知られていない植物工場の4つの「意外な真実」やITとの関わりを見ていく。

意外な真実 その1
「植物工場」という呼び方は日本だけ

 そもそも植物工場とは何か。日本施設園芸協会は「施設内で植物の生育環境を制御して栽培を行う施設園芸のうち、一定の気密性を保持した施設内で、環境および生育のモニタリングに基づく高度な環境制御と生育予測を行うことにより、季節や天候に左右されずに野菜などの植物を計画的かつ安定的に生産できる栽培施設」を植物工場と呼んでいる。

 もう少しかみ砕いて説明しよう。野菜を作る形態は大きく「露地栽培(露地園芸とも言う)」と「施設栽培(施設園芸とも言う)」に分かれる。露地栽培は畑で、施設栽培は建物(施設)の中で野菜を作ることを指す。植物工場は施設栽培の一形態に当たる。

植物の生産形態と制御可能な育成環境
植物の生産形態と制御可能な育成環境
出所:フロンティア・マネジメントの資料を基に日経コンピュータが作成
[画像のクリックで拡大表示]

 施設は閉ざされた空間であり、光や温度、湿度、二酸化炭素(CO2)濃度、養分、水分といった野菜の生育環境を制御しやすい。一番シンプルな施設は通常の温室で、主に養分や水分を制御する。最も複雑に生育環境をコントロールするのが植物工場だ。

 植物工場には人工光型と太陽光型がある(両者の併用型もある)。人工光型は閉鎖された空間で、人工光を使って植物を計画的に生産する。生産するのはレタスやベビーリーフといった葉菜類が中心だ。太陽光型は温室などの半閉鎖環境で生産する。レタスなど葉菜類のほか、トマトやパプリカなど果菜類を作っている。

 矢野経済研究所が2014年2月に公表した調査結果によると、日本における植物工場の市場規模は人工光型が約34億円(2013年)、太陽光型(併用型を含む)が約199億円(同)。2025年にはそれぞれ約443億円、約1057億円に拡大すると予想している。「日本に植物工場事業者は現在約200社ある。上位20社は1日当たりの生産量が2000株以上で、その他の多くは小規模」(植物工場事業者大手であるスプレッドの稲田信二社長)という。