「Microsoft Azure」と同じ仕様のプライベートクラウドを実現できる「Azure Stack」がいよいよ出荷される。米Microsoftは2017年7月から同製品の受注を開始し、9月から出荷を開始する。MSが切り札として位置付けるAzure Stackは、パブリッククラウドをユーザー企業社内に「延長」する存在だ。

 Azure Stackは、パブリッククラウドのMicrosoft Azureと同じ仕様のプライベートクラウドをユーザー企業の社内に構築し、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)として利用できる製品である。2015年5月のAzure Stack発表から2年が経って、ようやく製品版が出荷されるに至った。

 Microsoft AzureとAzure Stackは、仮想マシンなどを運用管理するための「管理ポータル」やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が同一であるため、ユーザー企業はパブリッククラウドとプライベートクラウドで同じ運用管理手法を適用できる。またMicrosoft AzureとAzure Stackとの間でアプリケーションを移行するのも容易だ。

 MicrosoftでAzure Stackのプロダクトマーケティングを担当するMark Jewett氏は「Azure Stackは、パブリッククラウドであるMicrosoft Azureをユーザー企業のオンプレミス環境に延長する存在となる」と語る(写真)。

写真●Azure Stackのプロダクトマーケティングを担当するシニアディレクター、Mark Jewett氏
写真●Azure Stackのプロダクトマーケティングを担当するシニアディレクター、Mark Jewett氏
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向く用途、向かない用途がある

 Azure Stackは、「パブリッククラウドであるMicrosoft Azureの全面導入を決めているが、一部のシステムだけはオンプレミス環境に残したい」といったニーズのあるユーザー企業にとっては有用だろう。パブリッククラウドとオンプレミスで、システム運用管理やアプリケーション開発の手法を共通化できるためだ。

 その一方でMicrosoft Azureが備える豊富な機能を使いこなしているユーザー企業には、Azure Stackは向いていない。Azure Stackは、Microsoft Azureが備える機能を100%実現するわけではないからだ。また、ユーザー企業の全ての業務システムをAzure Stackで稼働させるのも難しい。現時点ではAzure Stackのスケーラビリティ(拡張性)に限界があるためだ。それぞれのポイントを詳しく見ていこう。

機能のカバー率は100%ではない

 まずは機能面だが、Azure Stackは仮想マシンに関する基本的な機能や、「Docker」コンテナを使ったアプリケーションの展開といった「マイクロサービスのオーケストレーション」の作業を司る「Service Fabric」などに関しては、Microsoft Azureと同等の機能を備える。またAzure Stackは、Microsoftが「App Service」と呼ぶPaaSの機能も搭載している。

 しかしAzure Stackは、Microsoft Azureが備えるデータベースやビッグデータ分析、人工知能(AI)などに関する機能を搭載されていない。ユーザー企業はMicrosoft Azureが備えるこうした機能を活用することで、高度なアプリケーションを簡単に開発できる。しかしMicrosoft Azureの機能をフル活用したアプリケーションをAzure Stackで運用するのは難しい。つまりAzure Stackに向いているのは、Microsoft Azureの独自機能をなるべく使わない、シンプルな作りのアプリケーションということになる。

拡張性はラック1本分まで

 スケーラビリティ(拡張性)の点でも、Azure StackはMicrosoft Azureと大きく異なる。Azure Stackはサーバーハードウエアの最小構成が4台で、最大構成は12台となる。Jewett氏は「12台の物理サーバーで数百台の仮想マシンを運用できる」と、実用性に問題はないと主張するが、Azure Stackの拡張性はサーバーラック1本に収まる範囲だ。