AI(人工知能)を民主化する――。米Microsoftのサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)は頻繁にそう語る。専門家がいない一般企業でも最新のAIを活用できるよう、Microsoftが手助けするという意味だ。競合も多いAIクラウド市場でMicrosoftの強みは何なのか。米ワシントン州レドモンドの同社本社での取材から探った。

 筆者がMicrosoft本社を訪問したのは2017年6月下旬のこと。十数カ国から集まったプレスに対して同社のAI戦略などを2日間にわたって解説する説明会に参加した(写真1)。同社のAI&リサーチ部門を統括するコーポレート・バイス・プレジデントであるリリー・チェン氏などから、詳しく話を聞くことができた。

写真1●Microsoft本社のオフィスビルに向かうプレス一行
写真1●Microsoft本社のオフィスビルに向かうプレス一行
出典:米Microsoft
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 AIクラウドはMicrosoftだけでなく米Amazon Web Services(AWS)や米Google、米Salesforce.com、米IBMなど、他のクラウド事業者も力を入れている領域だ。こうした競合と比べた場合のMicrosoftの強みはどこにあるのか。それはやはり、ナデラCEOが言う「AI民主化」にあった。同社のAIクラウドを詳しく見ていくと、情報システム部門やエンドユーザーだけでAIを活用できるような仕組みが、至る所に組み込まれていたからだ。

 ポイントを解説する前に、まずはMicrosoftのAI戦略の概要を確認しておこう。同社のAIに関する製品やサービスは「AIプラットフォーム」と「データ」そして「アプリケーション」の三つに大別できる(写真2)。Microsoftの説明する図では、AIプラットフォームのことは「インテリジェンス」、アプリケーションのことは「エクスペリエンス」となっているが、ここではそれらを分かりやすい単語に置き換えた。

写真2●MicrosoftのAI製品サービスの概要
写真2●MicrosoftのAI製品サービスの概要
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 「AIプラットフォーム」とは「Microsoft Azure」のことだ。「データ」に関しては、人と人、モノとモノのつながりを「グラフ」によって表現した「グラフデータ」を提供する「Microsoft Graph」などを提供している。AIを活用したアプリケーションとしては、スマートアシスタントの「Cortana」や、AIに基づく機能を組み込んだ「Microsoft Office」などがある。

AIプラットフォームは競争が激しいが…

 AIプラットフォームであるMicrosoft Azureは、AIの実現に欠かせない機械学習の「学習(トレーニング)」や「推論」を実行するITインフラストラクチャーに加えて、Microsoftが開発したAIの機能をサービスとして提供することで、ユーザー企業が自社のアプリケーションにAIの機能を簡単に組み込めるようにした「Cognitive Services」「Bot Service」などのサービス群を提供している。

 ITインフラストラクチャーの部分は競合との差異化が難しい。Microsoft Azureでは、機械学習のトレーニングに使用するための「GPU(グラフィックス処理プロセッサ)インスタンス」などを提供しているが、同様のインスタンスはAWSやGoogle、日本のさくらインターネットなども提供している。むしろMicrosoft Azureの強みは、Cognitive ServicesやBot Serviceといったサービス群にある。

 Cognitive Servicesとは、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)から呼び出せる「画像認識」や「音声認識」「自然言語処理」などのサービス群である(写真3)。同様のサービスはAWSやGoogle、IBMなども提供しているが、Microsoftの場合、ユーザー企業が画像認識などの機能を簡単にカスタマイズできる仕組みを提供している点が他社とは異なる。

写真3●Cognitive Servicesの一覧
写真3●Cognitive Servicesの一覧
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