ユーザー企業のIT部門に所属するITエンジニアは、ともすると利用部門の要求の対処に追われがち。やらされ仕事ばかりではモチベーションが下がり、心が折れる。逆にITエンジニア側から利用部門に提案するなど、自発的に仕事を進める動きが増えれば、チームのモチベーションは自然に高まる。

“通貨”を配ってメンバーに裁量を与える ディスコ 中村 敬理氏

 半導体製造装置大手であるディスコの中村敬理氏(サポート本部 情報システム部 開発グループリーダー)は、メンバーの積極的な提案を促すためにさまざまな工夫を凝らすリーダーだ。中でも特徴的なのは「チーム内通貨」と呼ぶべき仕組みである(図7)。これはメンバーが提案した案件に対して、仮想的に割り当てるポイント制度のことである。

図7●提案意欲や事業感覚を高める「チーム内通貨」
図7●提案意欲や事業感覚を高める「チーム内通貨」
ディスコの中村敬理氏の例。自発的に仕事を進める姿勢を引き出し、チームメンバーのモチベーションを高める
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 例えば、自主的な開発の企画をメンバーが提案すると、リーダーの中村氏が開発規模や見込みユーザー数といった提案内容を確認し、その案件に見合うポイントをメンバーに割り当てる。また、その案件が利用部門に採用されそうかどうかを見極め、ポイントを増減する。

 中村氏からポイントを割り当てられたメンバーは、開発を始めるに当たってメンバーを募集したり、自身が抱える別のタスクを同僚に代行してもらったりする必要がある。そこで自らが保有するポイントを活用して、他のメンバーと交渉する。

 具体的には「このタスクをポイント×円で引き受けてくれませんか」といった要領だ。つまり、プロジェクトチームの編成や、プロジェクト期間中の自分の業務内容や量をメンバー自身の裁量で決められる。こうした裁量の大きさが、メンバーの心を高める。

“やらされ仕事”も高ポイントでやり甲斐

 さらに、チームメンバーの中島敏雄氏は「タスクを引き受ける側のメンバーもチーム内通貨のおかげで前向きに取り組みやすくなる」と話す。例えば依頼されたタスクの難易度が高いときは、依頼主の提示額よりも高いポイントを求める。ポイントに納得してタスクに取り組めば、“やらされ仕事”のようでもやり甲斐を見いだしやすいという。

 中村氏の呼びかけやチーム内通貨の仕組みが着実に機能し、利用部門に積極的に提案する動きが広がってきた。最近であれば、社内公募制度用のWebシステムの提案が人事部門に採用され、2016年7月に稼働した。実際に提案が受け入れられることで、さらにメンバーの士気は高まり、チームが活気づいたという。