ITエンジニア経験が数年程度の若手メンバーは一般に、仕事で貢献したいという意欲が高い。ただし、スキル不足でつまずきやすく、うまく解決できないと急速にモチベーションを下げ、心が折れてしまう。リーダーは、若手のメンバーにタスクに取り組んでもらうだけでなく、短期間でスキルを高める機会を提供したい。

  スキルを習得してタスクを順調に進められれば、若手メンバーは自信を付ける。向上心が湧き、心が折れることはなくなる。

「6人プログラミング」で若手のスキルと自信を伸ばす
ドリーム・アーツ 小谷 明美氏

 参考にしたいリーダーの一人は、ドリーム・アーツの小谷明美氏(プロダクト開発本部 サービス企画グループ グループマネージャー)である。小谷氏は自社が展開するSaaSのアプリケーション開発チームをリードする。チームはメンバー6人中3人がITエンジニア経験3年以内の若手。若手のスキルを効果的に伸ばす工夫として、小谷氏は、「6人プログラミング」ともいうべき仕組みを取り入れている(図3)。

図3●知識の共有と結束力を高める「6人プログラミング」
図3●知識の共有と結束力を高める「6人プログラミング」
ドリーム・アーツの小谷明美氏の例。仕事に役立つ知識が早く身に付くことで若手エンジニアのモチベーションが高まる。先輩エンジニアとペアを組むペアプログラミングよりは、若手が息苦しさを感じずに済むという
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ベテランの話を聞く場を作る

 「こう設計した理由は…」。ベテランのITエンジニアが話しながら、自らのノートPCでプログラミングを始める。机の中央に配置するモニター2台にその内容が映し出され、他のメンバーがのぞき込む。これが小谷氏らのチームが取り組む6人プログラミングの光景だ。週に3~4回、1回につき3~4時間程度、メンバー全員が机を囲んでプログラミングに当たっている。

 SaaSのアプリケーションや保守開発のように、既存のソースコードの改良を続ける現場では一般に、過去にさまざまな試行錯誤を経ている。ベテランのメンバーは、それまでの試行錯誤の過程で知識を身に付けてきたケースも多い。一方、その試行錯誤を若手のメンバーは知らない。経緯を積まないままタスクに取り組んでも、レビュー担当の先輩メンバーから「それは以前試してうまくいかなかった」などと否定されるだけ。こんな否定が続けば、若手メンバーは自信を失い、心が折れてしまう。

 そこで小谷氏らのチームでは、アプリケーション開発の初期から携わってきたベテランのメンバーが、設計上のポイントや、参考になる情報源、ツールなどの話をしながらプログラミングをしてみせる。それを参考にしながら全員でプログラミングに取り組むようにした。「なぜこんなソースコードになっているのかという背景を理解しながらタスクに取り組める」(小谷氏)。

 若手メンバーは、タスクの実施に必要な知識を短期間で身に付け、チームに貢献できるようになるため、モチベーションが高まる。さらに、一緒に開発に取り組むことで、チームの結束力も高まった。

ペアプロの反省を踏まえて進化

 メンバーの知識共有や結束力の向上を図る手法としては、アジャイル開発で一般的な「ペアプログラミング」がある。実は小谷氏も以前にペアプログラミングを試したことがあったが、6人プログラミングに切り替えた。

 その理由を小谷氏は、「先輩エンジニアと若手がペアを組むと、先生と生徒のような一方的な関係になりがちだった」と話す。もちろん知識共有には効果的だが、教わってばかりになってしまうと若手メンバーのモチベーションが高まりにくいと判断した。

 一方の6人プログラミングであれば、先生と生徒が1対1の関係にはならずに済む。「気軽に相談する雰囲気も作りやすい」と小谷氏は話す。