IT現場において活気に満ちたチーム作りの重要性はこれまでになく高まっている。IT現場が大きな環境変化にさらされているためだ。

 例えば、従来のシステムに加えて、自社の新しいビジネス展開のためにシステムを開発する機会が増えてきた。使い慣れない技術や開発プロセスを採用するケースも増えている。他方、納期の厳しさは相変わらずで、チームの人不足感も解消されない。連日の残業を余儀なくされているチームも多い。

 現場のITエンジニアが強いプレッシャーを感じていることを裏付ける最近の調査もある。ITスキル研究フォーラム(iSRF)が2015年6~8月に実施した調査では、高ストレス状態に当てはまるITエンジニアの割合が、一般平均の約1.8倍に上った(図1)。この状況を放置していると、心が折れるメンバーが出かねない。チームの生産性が下がるだけでなく、他のメンバーの負担がさらに増えてしまう。

図1●「高ストレス」のITエンジニアは他業種の1.8倍
図1●「高ストレス」のITエンジニアは他業種の1.8倍
現場のリーダーが放っておくと、心が折れるメンバーが続出しかねない
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 このようにプレッシャーが強い状況で、心が折れるメンバーが出るのを防ぐにはどうしたらよいか。心の動きに注目した働き方改革が不可欠だ。ストレスを軽減したり、ストレスをプラスのエネルギーに昇華させたりする工夫を凝らし、チームを活性化することがリーダーに求められる。

 働き方を改革し、心が折れないチームを作り上げたリーダーたちは実際にいる。彼らが現場で実践する仕組みを学ぼう。

キーパーソンの声で貢献意欲を引き出す SCSK 松野 行秀氏

 メンバーの心がストレスで折れないようにするために特に効果的な方法の一つは、「役立ちたい」という貢献意欲をメンバーに引き出すこと。例えばユーザーと直接話をすれば、「ユーザーのために役立とう」という思いが強まる。こうした思いを持つメンバーは、ストレスを受けても自分の力に転換しやすい。

 もっとも、ある程度大きな規模のプロジェクトでは、ユーザーと直接やり取りするのはリーダーや一部のメンバーに限られがちだ。声を聞けないメンバーは、「ユーザーのために役立とう」という思いを持つ機会に乏しく、心が折れやすい。

 この課題を意識し、キーパーソンの声を意識的にメンバーに届けようと気を配る現場リーダーがいる。SCSKの松野行秀氏(通信システム事業部門 メディアシステム事業本部 ブロードネット第二部 第三課長)だ。2013年~2015年にかけて携わった、ユーザー企業の経営統合に伴う基幹システムの統合プロジェクトでも、松野氏はその姿勢を徹底した。

 このプロジェクトは、要件定義に相当する移行計画を始めてから、一つめの拠点を統合する本稼働までの期間がわずか8カ月。データ移行作業と並行して業務機能の開発や基盤の設計を同時に進めても、ギリギリというスケジュールだった。ユーザー企業のビジネス上の都合から、期間延長も難しい。「正直なところ、これはきついと思った」(松野氏)。チーム全体に大きなプレッシャーがかかっていた。