コンサルティング企業のシグマクシスでマネージングディレクター SXキャピタル 取締役を務める柴沼俊一氏は2017年7月7日、「IT Japan 2017」(日経BP社主催)に登壇。「Future Society 来るべき『限界費用ゼロ社会』に向けて」というテーマで講演した。

 「限界費用ゼロ社会」とは、2014年に刊行された書籍の中で、著者で文明評論家のジェレミー・リフキン氏が用いた言葉。情報やエネルギー、モノ・サービスが「無料」に近づく社会を指す。柴沼氏は「1980~1990年代、工業化社会の次は知識社会が到来すると言われていたが、次に来る社会変革はそんな生やさしいものではない。もっとドラスティックな変化が起ころうとしている」として、限界費用ゼロ社会が到来すると説明。新たな社会の変化を描くこと、未来を自ら構想することの重要性を説いた。

数年ごとに仕事で必要なスキルが変わる

 限界費用ゼロ、つまり料金がゼロに近づいていくモノやサービスとして3つの例を挙げた。第1はコミュニケーション。手紙から電子メールやソーシャルメディア、さらにはメッセージ発信を自動化するチャットボットの登場で、媒体コストもメッセージ発信の手間もどんどんゼロに近づいているという。

 第2はエネルギーで、太陽光発電や蓄電技術、電気自動車技術などがこの状況を支えているとした。「日本では実感しにくいが、米国では大規模な太陽光発電のプラントが建設されている」(柴沼氏)。大規模な初期投資を敢行すれば、追加コストはほぼゼロでエネルギーを手に入れられる状況に向かってるという。

シグマクシス マネージングディレクター SXキャピタル 取締役 柴沼 俊一氏
シグマクシス マネージングディレクター SXキャピタル 取締役 柴沼 俊一氏
(撮影:井上 裕康、以下同じ)
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 第3の例はモノの流通。3Dプリンターやデジタルファクトリーの活用で、必要なモノは必要に応じて生産することで、以前はモノの価格に乗っていた物流コストがゼロに近づくとした。

 限界費用ゼロ社会の到来は「モノやサービスを無償で分け合う社会の到来」というプラスの面で議論されることが多い。だが柴沼氏は、社会変化に取り残された人々が大量に生まれるという負の側面を挙げた。

 例えば、限界費用ゼロ社会の到来で富の偏在や所得格差が大きくなる。「米国大統領選で争点になったように、グローバリゼーションの弊害として語られることも多いが、デジタライゼーションも含めた(限界費用ゼロ社会への)変革が格差を生み出している」との見方を示した。

 AI(人工知能)の本格活用も含めデジタライゼーションは雇用にも影を落とす。「産業革命のときは、親は農業従事者、子供は工場労働者になるといった具合に、世代ごとに仕事が変わることで、変化に対応してきた」(柴沼氏)。しかしAIの登場などにより。仕事に求められるスキルは短期で加速度的に変化していく。労働者が数年単位でスキルを更新する必要があると訴えた。