「デジタルとデザインのかけ算がイノベーションを起こす」――。日立製作所サービス&プラットフォームビジネスユニットSenior Technology Evangelistの渡邉友範氏は2017年7月6日、「IT Japan 2017」(日経BP社主催)の基調講演でこのように語り、デジタル技術にデザイン思考を取り入れる重要性を説明した。

日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Senior Technology Evangelistの渡邉 友範氏
日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Senior Technology Evangelistの渡邉 友範氏
(撮影:井上 裕康、以下同じ)
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 デジタル技術の発展で開発手法が大きく変化していると渡邉氏は述べる。利用者からアイデアやニーズを収集するデジタル技術が未熟だった時代は、情報をフィードバックして開発に生かすスピードが遅かった。IoT(インターネット・オブ・シングズ)が登場し、ビッグデータを収集しやすくなった今では、製品の計画・開発段階で多くのアイデアをフィードバックできるため、製品開発のスピードが速くなった。

 今後の開発ではデータを把握し、早く実行するためのデジタル技術と、従来の延長にない発想を生み出すデザイン思考を組み合わせることで、効果的な開発ができるようになる。

デザインで開発課題を解決

 渡邉氏はデザイン思考を有効に活用した事例を三つ紹介した。

 1番目は、駅の混雑状況をスマートフォンで確認できるアプリ「駅視-vision(エキシビジョン)」の開発だ。駅視-visionは駅構内の改札やホームの込み具合を駅内の監視カメラで撮影し、その映像を遠隔から確認できるサービス。東京急行電鉄が利用者向けに開発した。東京急行電鉄は日立の人流分析技術を採用し、2016年10月から60駅で同サービスを開始している。

 アプリ開発で一番の課題になったのは、プライバシーの侵害リスクだ。映像をそのままアプリに表示すると、個人情報の漏えいやプライバシー侵害につながりかねない。そこで両社はデザインでこの課題を解決したという。

 実用化したアプリでは、カメラに映る駅の利用者をアイコンのような抽象化したマークで置き換える。人が動いている場合は移動方向が分かる青色のマークを風景画像に重ね合せる。人が立ち止まっている場合は黄色のマークになり、人の流れや込み具合が一目で分かるようにした。人をマークで置き換えているため、プライバシーを侵害するリスクが解決できた。

 2番目に、大型の医療施設の間取り設計を効率化した例を紹介した。デンマークのコペンハーゲンにある大学病院において、スタッフの移動距離(動線)が最も短くなる間取り設計をシミュレーションで決定するというもの。結果として病院スタッフの移動距離は12%削減できるようになったという。

 シミュレーションでは現場を調査して潜在的なニーズをくみ取る「エスノグラフィー調査」と人流分析技術を活用した。日立の担当者が医療現場へ立ち入り、看護師や薬剤師の業務内容を把握し、動線が最短になる間取りをシミュレーションで設計した。動線の短縮で確保できた時間を患者への対応に使うことで、医療の質の向上が期待できる。