「ビジネスの成否を分けるポイントの一つは、感動する顧客体験を提供できるかどうかだ」――。セールスフォース・ドットコムで専務執行役員デジタルイノベーション事業統括を努める山賀裕二氏は2017年7月6日、「IT Japan 2017」(日経BP社主催)で講演し、商品サービス開発における顧客体験の重要性について解説した。

セールスフォース・ドットコムで専務執行役員デジタルイノベーション事業統括を努める山賀 裕二氏
セールスフォース・ドットコムで専務執行役員デジタルイノベーション事業統括を努める山賀 裕二氏
(撮影:井上 裕康、以下同じ)
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 オープニングビデオでは、事例としてリストバンド型の活動量計を出荷している米フィットビット(Fitbit)を紹介した。活動量計が収集したデータを基に適切な情報を提供することで、顧客体験を提供している例である。

 「最近では、メガネなど様々なモノがネットワークにつながっている。新しい顧客体験を提供できる時代になっている。ビジネスの成否を分けるポイントの一つは、感動する顧客体験を提供できるかどうかだ」(山賀氏)。

 例えば、配車サービスの「Uber」(米ウーバー・テクノロジーズ)の魅力は、利用の手軽さと、配車されるまでの待ち時間が短いことだという。運転手と会話を交わす必要もなく、目的地に着いたら降りるだけで、料金の決済も済む。

 顧客体験を変えるためには、ツールとしてテクノロジーが必要になる。例えば、自動車を購入する際に、インターネットなどを使って事前に情報を収集し、買うことを決めてから販売店に行く。「販売店に足を運ぶ回数は、過去の7.5回から現在では1.5回に減った。販売店に行く目的は、実際に乗ってみることと、金額の交渉だけだ」(山賀氏)。

 デジタルによるビジネスの変革は、様々な場所で加速していると山賀氏は指摘する。例えば、米コカ・コーラはAI(人工知能)で品ぞろえを最適化している。独アディダスはEC(電子商取引)と実店舗の親和性を図っている。米ゼネラルモーターズは、コネクテッドカーを使ってパーソナライズしたサービスを提供している。米インチュイットは、税務申告のサポートとしてスマートフォン画面を使ったコールセンターサービスを提供している。

売れるためには、その商品を「なぜ」開発したのかが最も重要

 顧客体験を提供する上で大切な指針として山賀氏は、ゴールデンサークルと呼ぶ三つの円で示したコンセプト図を紹介した。中心にWhy(なぜ)の円、その周囲にHow(どうやって)の円、最も外周にWhat(何を)の円を配置した図である。まずはWhy(なぜ)を明確にし、次にHow(どうやって)を考え、最後にWhat(何を)を考えるという順番が重要になる。

 米アップルが、もし外からの発想(何をからの発想)でiPhoneを売っていたとしたら、「素晴らしいスマートフォンを開発した。優れたデザインとユーザーフレンドリーな操作性だ」という説明になる。これでは売れない、と山賀氏は言う。

 一方で、内からの発想(なぜからの発想)に立つと、「私たちは世界を変えられる。世界を変えるために美しいデザインと機能性に優れた製品を出す努力をしているうちに、このような製品ができた」という説明になる。これでiPhoneは成功したという。