「人工知能(AI)は労働者を、ブロックチェーンは管理者を代替する」――。2017年7月6日、「IT Japan 2017」(日経BP社主催)の基調講演に立った野口悠紀雄氏はこのように述べ、普及しつつあるブロックチェーンの特徴を解説した。野口氏は、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問や一橋大学名誉教授を務めている。

早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄 氏
早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄 氏
(撮影:井上 裕康、以下同じ)
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 野口氏は、仮想通貨の基礎技術であるブロックチェーンが取引履歴を管理する仕組みについて、中央銀行が通貨の取引を集中管理する現状と比べながら説明した。

 野口氏は、中央銀行の存在について「王様が全ての取引内容を記帳し、信用を与えているもの」と表現。一方で、ブロックチェーンを「町の中心に置いた誰もが文字が書き込める『石板』」とたとえた。「仮想通貨の取引をする人は、石板に取引の情報を書き込む。石板に書かれた情報は、簡単には書き換えられない」(野口氏)。

 集中管理には課題もある。「実際には『王様』だけでなく、多くの人が記帳に関わる。コストは高く、外部からの攻撃には弱い」(野口氏)。ブロックチェーンはこれらの課題を解決するという。

 ブロックチェーンにおける記帳は取引に参加するコンピュータが担い、その履歴は分散して個々のコンピュータに残る。これらの特徴について、野口氏は「複数の町に同じ内容の石板があり、相互に監視できるため改ざんが難しい状況」と表現した。集中的に取引を見張る管理者がいないことが、ブロックチェーンの最大の特徴になる。

 仮想通貨である「ビットコイン」は、このブロックチェーンを利用している。野口氏は「パブリックブロックチェーン」と「プライベートブロックチェーン」、2種類のブロックチェーンについて紹介した。

 パブリックブロックチェーンは、ビットコイン型のブロックチェーンだ。不特定多数が参加するコンピュータネットワークを構築し、ある種の膨大な計算を個々のコンピュータに課すことで、通貨に必要な「信用」を確保する。この「Proof of Work(仕事量における証明)」という発想について、野口氏は「非常に革新的な発想だ」と語る。

 プライベートブロックチェーンは、情報システムとして銀行や中央銀行などが運用するブロックチェーンを指す。つまり、これら機関が取引履歴を保証する。この点でパブリックブロックチェーンとは性格が異なる。むしろ、「管理者が存在し、固定された価値を扱う電子マネーの性格に似ている」(野口氏)という。ビットコインとは対照的だ。

 ブロックチェーンの応用は、証券など金融分野にも広がる。野口氏は、証券業界の一般的な課題として、決済業務に数日間もの時間がかかる点を挙げた。これを短縮するため、NASDAQや日本取引所グループはブロックチェーンを利用した決済業務の実験に取り組んでいるという。野口氏は「近い未来、証券取引に関わる多くの人々の業務が自動化されるかもしれない」と語った。