「ITの技術革新がデジタルイノベーションという形に表れている」。新日鉄住金ソリューションズの謝敷 宗敬代表取締役社長は、2017年7月5日に「IT Japan 2017」(日経BP社主催)で「 ヒトとITが創り出す新たな『現場』」と題した講演を行った。

新日鉄住金ソリューションズの謝敷 宗敬 代表取締役社長
新日鉄住金ソリューションズの謝敷 宗敬 代表取締役社長
(撮影:井上 裕康、以下同じ)
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 冒頭「デジタルイノベーションをどのように捉えたらいいのか」と聴衆に問いかけた謝敷氏は、「The 2016 EU Industrial R&D Investment Scoreboard」におけるR&D(研究開発)投資額に着目し、デジタルイノベーションについて解説した。

 R&D投資額の上位は自動車、IT、製薬やバイオなどを手がける企業が多くを占めるが、なかでも世界のトップ20社ではIT関連企業が7社に達する。セクターごとに見ると、ITセクター単独で24.7兆円になり、これは4位から10位までのセクターの合計(22.1兆円)よりも大きい。しかもITセクターの成長率は高く、3年間で61%も増加している。それらの投資の成果は、製薬やバイオ、自動車、金融などの利益の大きな市場へと向かっている。

 この結果から謝敷氏は「ディープラーニング、自動運転、FinTechなどの言葉をよく耳にするように、製薬やバイオ、自動車、金融などで日々、新しい技術が生まれている」とし、「ITの技術革新はデジタルイノベーションという形で各業界の生産性向上に貢献している」と分析。「ときには産業構造を破壊的に変えるようなインパクトを残すが、デジタルイノベーションは間違いなく本物だ。自分たちのビジネスにどう生かすかがポイントで、デジタルイノベーションに積極的に取り組んだ会社が生き残れると見ていい」と述べた。

ITでヒトの能力アップ、共同作業効率化、ITと人の役割分担

 続いて謝敷氏は、「これまでは技術検証が多かったが、最近は実際のビジネスに使われることが増えている」と前置きし、新日鉄住金ソリューションズにおける3つのデジタルイノベーションの例を紹介した。

 最初に取り上げたのは、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)を活用したコークス炉の作業分析である。従来の作業分析は、目視での観察やストップウオッチでの作業時間計測を基に分析していた。ところが、目視やストップウオッチでは計測の労力と時間が掛かり、分析の負荷も高いといった課題があった。

 そこで作業員にUWBタグを装着し、センサーで位置情報を把握できるようにした。これによって百数十人といった大人数を対象に、正確に作業の実態を把握できるようになった。「ポイントは、収集した位置情報のデータについて、人間が見て分析できるようなサマリーレポートを自動生成したこと」と謝敷氏は見ている。分かりやすく提示できるから改善に生かせるというわけだ。

 今後はウエアラブルデバイスの活用も視野に入れているという。ウエアラブルデバイスなら、タグよりも詳細な情報が収集できる。例えば、作業員の手の動き、体温などのバイタルデータも扱える。