ユーザーには価値が分かりにくい、料金の値下げに期待

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 夏野 剛特別招聘教授

 5Gは3Gとかなり似た期待値を持って受け止められているが、状況は当時と明らかに異なる。当時、ネットワークと端末の両方を調整できたのは携帯電話事業者だけ。最初は端末の性能が悪くて鳴かず飛ばずだったが、携帯電話事業者がリスクを取って性能の良い端末を提供してから一気に3Gの流れに変わった。さらにコンテンツのプラットフォームでも成功につなげた。ネットワークをはじめ、端末、アプリ、サービスと調整できたのが3Gだった。

 これに対し、5Gはネットワークの高度化だけの話。端末やコンテンツはアップルやグーグルに支配され、もはや携帯電話事業者にコントロール権はない。ネットワークだけで何ができるのかを改めて問われているのが5Gと言える。

 確かに5Gでネットワークは高度化する。しかし、高速・大容量、低遅延、多数接続と言われてもユーザーには価値が分かりにくい。スマートフォンの利用を前提に考えると、4K/8K画像を見せられても違いが分からない。低遅延もどれだけニーズがあるか見えず、時間がかかっても安いほうがいいとなるかもしれない。多数接続も携帯電話事業者の供給能力が上がるだけの話であり、ユーザーには見えない価値になる。

 携帯電話事業者の供給能力が上がることで期待されるのは料金の値下げ。無線LANやLoRaのように無料の方式はあるが、携帯電話網が圧倒的に安くなって同じことができるのであれば、それに越したことはない。免許不要帯は混雑して効率が悪くなっており、全体最適につながる可能性もある。料金が安くなり、あらゆることに通信を活用できる方向に進むのであれば画期的な5Gになる。(談)

5Gで世の中は大きく変わらない、異種混合ネットの進展に注目

ジャパン・リンク 松本 徹三社長(元ソフトバンクモバイル副社長)

 「第3世代」や「第4世代」、「第5世代」などと言っているのは通信業界だけ。単なるあだ名のようなものにすぎない。無線通信の技術革新は世代に関係なく、着々と進んでおり、3GPPで次々に標準化されている。例えば5Gの無線技術の中核とされる「Massive MIMO」などは既に標準化され、4Gのネットワーク上でも使われている。

 改めて3Gで大騒ぎしたことを思い出してほしい。当時の最大のうたい文句は「テレビ電話」だった。テレビ電話なんかうまくいくはずがないと思っていたら、案の定不発だった。日本では3Gがそれなりに成功したので欧米人から盛んに「キラーアプリは何か」と聞かれたが、そんなものはなかった。3Gはディスプレイの解像度が高く、誰が見てもはっきりきれいと分かる端末をサポートしたので普及が進んだ。日本では光回線が浸透し、既に多くのユーザーが十分に高速な通信環境を家庭で経験している。5Gではこうした高速通信環境がいつでもどこでも使えるようになるだけで、何かとんでもなく新しいものが出てくるわけではないと思う。

 モバイル通信技術ばかりが注目される傾向にあるが、無線LANも着々と高速化が進んでいる。例えばIEEE 802.11adでは無免許である60GHz帯の高周波を使い、同一室内での超高速通信を実現している。結局、通信システムは環境や目的に応じて最適な技術と周波数を使い分けることが重要。5Gで最も注目すべきは、無線LANやIoT関連の新しい通信技術を含め、種々の異なった通信技術も取り込んでいき、「Heterogeneous Network」(異種混合ネットワーク)を実現していくということではないか。(談)