「今の量子コンピュータは(現行の)デジタルコンピュータが産まれる前のようだ」。学会のパネルディスカッションで、米グーグル元副社長の村上憲郎氏はこのように述べた。現在の量子コンピュータの状況は、アナログ式のコンピュータに代わって実用的なデジタルコンピュータが登場し、産業応用が加速した1940年代に近いというわけだ。

 量子コンピュータの国際学会「Adiabatic Quantum Computing Conference 2017(AQC 2017)」が2017年6月26日~29日、リクルートホールディングス本社(東京・千代田)で開催された。参加希望者が想定以上に増え、学会開催期間中にビデオ配信の参加枠を増やすなど、注目度の高い学会となった。

Adiabatic Quantum Computing Conference 2017のWebページ
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 注目が集まった理由に、量子コンピュータの産業応用が現実味を帯びてきたことがある。2016年6月に米グーグルの研究者が量子コンピュータを使ってスーパーコンピュータ(スパコン)の性能を上回る計算性能を示すと宣言したこと、2017年6月にソフトバンクグループのファンドが量子コンピュータ関連の企業に投資をする計画を明らかにしたことなどにより、量子コンピュータに注目する企業が増えている。

 AQC 2017には学術分野の研究者だけでなく一般企業の発表も目立った。国内開催ということもあってか、デンソーやブレインパッドなど日本企業が相次ぎ研究成果を発表していた。

日本は理論の出発地

 学会の名称でもある「Adiabatic Quantum Computing(量子断熱計算)」は量子アニーリング(Quantum Annealing)の別名。東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史氏が提唱した理論である量子アニーリングを演算方式に採用した量子コンピュータのことだ。

 量子コンピュータは「0」と「1」を重ね合わせた状態が取れる量子ビットを基本単位として計算をする。量子アニーリングでは不安定な状態だった量子ビットが安定な状態に変化する自然現象を使って問題を解く。

 量子アニーリング方式の量子コンピュータは2011年にカナダのディー・ウエーブ・システムズが実機「D-Wave」シリーズを商用化したことで研究が加速した。学会でもD-Waveマシンを使った発表やD-Waveマシンに対応した装置開発の発表が目立った。

デジタルコンピュータ発明の直前のようだ

 2017年6月28日には「What will be the future society with quantum computers?(量子コンピュータで未来の社会はどうなる)」と題したパネルディスカッションがあった。スピーカーには村上氏と、量子コンピュータを研究するグーグルの研究者や大学教授などが登壇した。