「50代で転職するSEが増えていると実感する。昔は35歳に壁があったが、今はそうではない。50代に限ったデータではないが、40歳以上の転職決定者数は2000年から2016年でほぼ5倍になっている。同期間の全年齢合計では4倍なので、40歳以上の方が全体より伸び率が高い」。Tech B-ingやTech総研の編集長も務め、エンジニアの転職事情を見続けてきた、リクルートキャリアの藤井薫リクナビNEXT編集長はこう話す。

リクルートキャリアの藤井薫リクナビNEXT編集長
リクルートキャリアの藤井薫リクナビNEXT編集長
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 50代SEが転職しやすくなった背景には、大きく三つの要因がある。一つめは「人手不足」、二つめは「脱年功給」、三つめは「場数×規模」だ。

50代SEの転職が増えている三つの要因
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 人手不足はかつてない状態にある。「ITエンジニアの求人件数は2014年から右肩上がり。SEを中途採用したいという求人数は、転職希望者の3.27倍になる。倍率だけならこれを上回る職種もあるが、SEの求人はとにかく数が大きい。求人数3万、転職希望者1万人といった規模なので、数的なギャップが非常に大きい」(藤井リクナビNEXT編集長)。

 実のところ、同じくらいのスキルなら、若い人の方がいい、という企業側の姿勢は大きくは変わってない。しかし、人手不足の深刻さが増すにつれ、「企業が転職希望者に求める条件のうち、年齢の優先順位を下げるところが増えた」(藤井リクナビNEXT編集長)。つまり、スキルさえあれば、年齢にそこまでこだわらない企業が出てきているのだ。

専門職の処遇改善が50代の転職後押し

 脱年功給とは、受け入れ側となる企業の給与体系や人事制度が変わってきたことだ。「専門職のポストを用意できる企業が以前に比べて増えた」(藤井リクナビNEXT編集長)。一昔前は給料は年功序列で決まり、年次を重ねたら管理職になるのが当たり前だった。そのため、専門性の高い50代SEがいても、その人に適切なポストを用意できなかった。先進的な人事制度を持つ企業の登場で、この状況が崩れてきた。

 藤井リクナビNEXT編集長によると「珍しいケースではあるが、開発現場に対する思いが強く、58歳で大手SIerの部長からプログラマーに転職したという例もある」という。

 場数×規模とは、大規模プロジェクトを多く経験していることだ。「50代は若手時代に銀行の第3次オンラインシステムなどの大規模プロジェクトを経験した人が多い。プロジェクト数も豊富だったので、プロジェクトマネジャーの立場になった経験も多い」(藤井リクナビNEXT編集長)。今の50代SEは、優秀なプロジェクトマネジャーとして育ちやすい環境にいたのだ。