富士通は管理職を務めた50代SEの活性化を狙い、2015年10月に新会社「富士通クオリティ&ウィズダム(FJQW)」を設立した。管理職を離れた55歳以上のSEは全員FJQWに職場を移す。

 「50代SEの活性化は以前からの経営課題だった。だが、全社に影響する人事制度の変更は時間が掛かる。SI事業部門の“特区”として新会社を設立して、今までより55歳以上のSEを厚遇できる場を作った」。同社の豊田建グローバルサービスインテグレーション部門ビジネスマネジメント本部長代理(人事・人材開発)兼人事部長はこう説明する。

富士通の豊田建グローバルサービスインテグレーション部門ビジネスマネジメント本部長代理(人事・人材開発)兼人事部長
富士通の豊田建グローバルサービスインテグレーション部門ビジネスマネジメント本部長代理(人事・人材開発)兼人事部長
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 富士通には55歳(課長・部長の場合)から57歳(本部長の場合)で管理職から外れる「役職離任」制度がある。一般的に言われる役職定年と同じだ。「報酬が下がり、部下もいなくなる。本人は事実上の引退と受け止め、モチベーションが下がってしまっていた」(豊田本部長代理)。

 この変化は非管理職よりも大きい。管理職に出世するほど評価の高く、精力的に働いていたSEが、急激に顧客に向き合わず、難問にも取り組まないSEになってしまう。“55歳ショック”とも呼ぶべき事態があった。役職離任した55歳以上の元管理職のSEは増え続けており、2020年には300人を超える。

 単に本人のモチベーションが下がるだけではない。豊田本部長代理は「職場内に役職離任でうちひしがれた先輩がいると、後輩のモチベーションも下がってしまう」と言う。

給料のダウンを抑え肩書きも維持

 55歳ショックが発生するのは、役職離任で給料、肩書き、そして活躍の場を奪われるからだ。

 富士通の役職離任制度では、給料は管理職としての格付けに応じて、離任前の100%、85%、55~85%のどれかになる。「実際には25%ダウンの75%になる人がほとんどだった」(豊田本部長代理)。

 肩書きは「課長」や「部長」から「エキスパート」や「シニアエキスパート」になる。「事情を知らない家族や知り合いの接し方が変わって、プライドを傷付けられてしまう人もいた」(豊田本部長代理)。

 役職離任制度は富士通全体の制度なので、簡単には変えられない。そこで、SI部門独自の取り組みとして、FJQWを役職離任した管理職SE(シニア幹部)の受け皿にして、55歳ショックを緩和しようとしている。

富士通は「シニア人材特区」の新会社を設立
富士通は「シニア人材特区」の新会社を設立
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 シニア幹部は富士通に在籍したままFJQWに出向するか、FJQWに転籍するかを選択できる。どちらにしろ、シニア幹部は全員がFJQWで仕事をすることになる。転籍を選択した場合は、適用される人事制度が変わる。富士通ではなく、FJQWの人事制度で処遇されることになるのだ。

 まず、給料の面では、ダウン幅を縮小できる。「転籍した場合、以前の制度より給料のダウン幅を縮小できると約束している。役職離任前の80%、85%の給料というSEが増えてきた」(豊田本部長代理)。シニア幹部の給料を決める基準を変えたからだ。FJQWでは、専門性認定の社内資格「FCP(Fujitsu Certified Professional)」の取得と、能力発揮度合いに応じて役職離任後の報酬を決める。

 能力発揮度合いは「専門性を発揮してプロジェクトを支援できている」といった、プレイヤーとしての能力だ。役職離任後は組織を率いるマネジャーではなく、専門性を活かしたプレイヤーとなる。そうした実情に沿った評価基準に変えた。「以前に比べ、FCPを取るSEが増えた」(豊田本部長代理)という。

 FJQWでの肩書きは「担当課長」「担当部長」といったものになる。「役職離任前に『マネージャー』(課長)だった社員が、FJQWでは『担当部長』という呼称を持つケースも多い」(富士通広報)という。