ネットワークコマンドやパケットキャプチャーツールを使いこなせれば、不具合の箇所を絞り込んでいける。そうしたスキルと、プロトコルの知識を駆使して解決したのが、今回の事例だ。

ファイルのコピーに時間がかかる

 Yさんは、京都市にあるF社に勤める技術者。F社は、主にガス栓や温水コンセントを開発・製造している企業だ。Yさんは製品の研究・開発をしながら、社内システムの構築や運用を担当していた。

 F社の社内ネットワークは、下の図のようになっている。Yさんが所属する研究開発部門などが入る本社棟以外に、別建物の工場棟がある。本社棟と工場棟の間は、無線LANのWDS接続でつながっている。WDSとは、Wireless Distribution Systemの略。無線LANアクセスポイント(以下、AP)同士で通信してネットワークをつなぐ方法。無線LANによってネットワークを延長しているのである。

トラブル発生時のF社のネットワーク
トラブル発生時のF社のネットワーク
ネットワークは、本社棟と工場棟に分けられる。2つの棟の間は、無線LANアクセスポイント(AP)のWDS接続でつながっている。WDSは、AP間で通信する機能。
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 ある日、Yさんは工場棟の3階の事務所にあるパソコンから同じ工場棟の2階にあるファイルサーバーにアクセスし、手元のパソコンにファイルをコピーしていた。そのとき、Yさんはふと気付いた。

 「ファイルをコピーする速度が遅いなって感じたんです。たぶん、普段使っている工場の人たちは気付いていなかったんだと思います。私もたまたま気付いたくらいですから」(Yさん)。

 逆に、手元のパソコンからファイルサーバーへファイルをコピーしてみると、こちらは遅く感じなかった。コピーにかかる時間は、体感的に倍くらいの違いだろうか。片方向の通信だけが遅い。

サーバーからファイルをコピーするのに時間がかかる
サーバーからファイルをコピーするのに時間がかかる
工場棟2階にあるサーバーから工場棟3階にあるパソコンにファイルをコピーすると、時間がかかる。しかし、パソコンからサーバーへと逆方向にコピーをしても、時間はさほどかからない。
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 何度かファイルをコピーしたが、片方向だけが遅い現象は変わらなかった。