Apple Payでは現在、3つの機能が提供されている。2014年10月の米国ローンチ時に提供開始された「NFCを使った対面決済」「アプリ経由のオンライン決済」、2016年提供開始のiOS 10以降で利用が可能になった「Webブラウザー経由のオンライン決済」である。そして今回、2017年秋に提供されるiOS 11において、4つめの機能である「個人間(P2P)送金」の提供が始まる。

Apple Payの4つめの新機能として発表された「個人間(P2P)送金」
Apple Payの4つめの新機能として発表された「個人間(P2P)送金」
出所:Apple
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 Apple Payの個人間送金は、Apple IDを持つユーザー間での送金を可能にするもので、インターフェースにiMessageが利用される。相手に送りたい金額を入力するだけで送金が完了するという、非常にシンプルなものだ。

 米国ではVenmoやSquare Cashなどの専業サービスのほか、Facebook Messengerのようにメッセージングサービスの一部に送金機能を包含したものもある。中国ではWeChatのようなメッセージングサービスを介して個人間送金が広く利用されており、昨今のAlipayやWeChat Payのようなサービスがブームになる下地を作っている。

 Appleがこの市場に参入したことで、市場にどのようなインパクトを与えるのか。さらにApple自身にこの新しいサービスで何を狙うのか。改めて考察したい。

個人間送金を実現するバーチャルカード「Apple Pay Cash」

 まずApple Payの個人間送金(以後、P2P送金)機能についてまとめておく。前述のように送金アクションはiMessegeのインターフェースを介して行われ、話し相手に対する送金金額を決めることで機能を利用できる。Apple Payに登録済みのデビットカードまたはクレジットカードを送金元に指定し、Touch ID認証を行うことで送金が実行される。

 一部噂にも出ているが、2017年秋に登場する見込みの新型iPhoneの一部機種ではTouch IDが搭載されない可能性があるという話を、筆者も情報筋から聞いている。もしそうなった場合でも、Touch ID以外の何らかの認証方法(虹彩認証または顔認証)が用いられると予想する。

iMessageで話し相手への送金金額を指定するだけでP2P送金機能が利用できる
iMessageで話し相手への送金金額を指定するだけでP2P送金機能が利用できる
出所:Apple
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送金はApple PayのWalletに登録済みのデビットカードまたはクレジットカードから行われ、Touch ID認証で了承したものとされる
送金はApple PayのWalletに登録済みのデビットカードまたはクレジットカードから行われ、Touch ID認証で了承したものとされる
出所:Apple
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 Apple PayのP2P送金機能で送金されたお金を受け取るために用意されるのが「Apple Pay Cash」だ。一種の「バーチャルカード」と呼べるもので、銀行口座のようにApple Pay Cash上にクレジットとして貯めることが可能なほか、Apple Payの仕組みを使ってそのまま店舗での決済やオンライン決済もできる。Apple Pay Cashからのキャッシュアウトも可能で、恐らくApple Payに登録済みのデビットカードまたはクレジットカードに対して資金転送が行えるものとみられる。

 米国の場合、デビットカードのほとんどは「ATMカード」と呼ばれ、銀行口座へ直接アクセスできる。そのため、例えばBank of AmericaのようにApple Pay対応のATMで同行のデビットカードを登録したiPhoneをかざせば、あとは暗証番号を入力するだけでATM操作が可能になる仕組みが存在している。

P2P送金サービスの鍵となる「Apple Pay Cash」。Apple Payの支払いにも利用できるバーチャルカードだ
P2P送金サービスの鍵となる「Apple Pay Cash」。Apple Payの支払いにも利用できるバーチャルカードだ
出所:Apple
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米Bank of AmericaのApple Pay対応ATM。右側中央部のカード挿入口の隣にあるリーダー部分に、Touch IDに指を載せた状態のiPhoneを近付けるだけで操作を開始できる(筆者撮影)
米Bank of AmericaのApple Pay対応ATM。右側中央部のカード挿入口の隣にあるリーダー部分に、Touch IDに指を載せた状態のiPhoneを近付けるだけで操作を開始できる(筆者撮影)
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