「必要なサービスを提供できないリスクも抱えている」――。こんな発言が飛び出したのは、2015年10月に開かれた電力基本政策小委員会だ。旧東京電力のCIO(最高情報責任者)でもあった、山口博副社長の発言である。

 この時東京電力は、2016年4月の電力小売りの全面自由化に向け、「託送業務システム」の開発に取り組んでいた。稼働開始まであと半年となった時点での山口副社長のこの発言は、大きな波紋を呼んだ。「サービスを提供できないリスク」とは、同システムの開発が2016年4月に間に合わない、ということを意味するからだ。

 結局、同システムはひとまず計画通りに稼働したものの、トラブルが続発。電力小売り自由化を機に参入した企業が、顧客に電気料金を請求できない事態に陥った。

 そして2017年6月9日、東京電力から分社後に送配電事業を担う東京電力パワーグリッド(東電PG)が、「確定通知遅延等に対する反省とそれを踏まえた今後の対策」とする文書を公表した。これまでの顛末の総括と、今後に向けた改善策を示している。

 この1年、東京電力そして東電PGのシステム開発プロジェクトで、一体何が起きていたのか。

ピーク時2000人月を投じるも不具合

 山口副社長が冒頭のように発言した通り、託送業務システムは開発中からその機能提供が不安視されていた。発言当時、システム開発の人員数は約2000人月とピークに達していたとされる。

 実際、2016月4月の自由化以降、託送業務システムで不具合が次々に見つかることになる。

 この託送業務システムは、電力自由化に不可欠なシステムだ。電力自由化以降は、送配電設備を持たない企業も「小売電気事業者」として電力を販売するようになる。そのときに販売する電力を最終消費者まで送電する業務が「託送」である。

東京電力パワーグリッドの託送業務システムと託送の仕組み
東京電力パワーグリッドの託送業務システムと託送の仕組み
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 託送業務システムは、送電する電気使用量などを管理し、それを小売電気事業者に通知する役割を担う。

 このシステムに不具合が発生し、電気使用量が算出できない状態に陥った。このため、一部の小売電気事業者は毎月の電気料金を消費者に請求できなくなった。当然小売電気事業者からは、「電気料金の請求ができない」「誤った電気料金を請求しそうになった」など、東電PGに対する不満の声が続出した。