米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)や米マイクロソフトなど世界の名だたるIT企業を味方に付けて米インテル(Intel)の牙城に攻め入る英アーム(ARM)の強みは「水平分業」に徹してきたことに尽きる。

 アームはCPUコア(ARM7/9/11、Cortex-A/M/R)やGPUコア(Mali)などの回路設計図や命令セットのライセンスをチップベンダーに提供する事業に特化してきた。チップ全体の設計や製造には踏み込まない。チップベンダーやIT企業にとって、アームはパートナーであり、競合にはならない。

 自らは黒子に徹してARMアーキテクチャーの仲間を集め、エコシステムを形成した。IoT関連のスタートアップ企業Cerevo(セレボ)の岩佐琢磨CEOは「AndroidなどLinuxベースのOSが動き、多くのSoCベンダーが参入しているためチップの調達が容易。IoTのスタートアップにとって、アームのCPUを使わない選択肢はない」と断言する。

 アームは1990年代以降、主に携帯電話機向けにCPUコアを提供。その後、スマートフォンや車載機器、IoT(インターネット・オブ・シングズ)機器へと適用範囲を広げた。

ARMコアのシリーズ別チップ出荷数と主な用途
ARMコアのシリーズ別チップ出荷数と主な用途
(出所:英アームの資料を基に本誌作成)
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 SoCベンダーはCPUコアの開発をアームに委ねることで、周辺回路や開発キットなどの領域に開発リソースを集中。その領域で激しい競争を繰り広げることで、アームの技術をベースとした強固なエコシステムが育った。「SoCベンダーは世界で1年間に100社が生まれ、うち10社は大手に買収され、残りは消える。競争を通じて、様々なIoT機器の特性にあった多様なSoCが開発され、入手できるようになった」(セレボの岩佐CEO)。

 水平分業と並ぶもう一つの強みがアームにはある。それは、数年先の技術トレンドや需要を予測し、必要な技術を用意しておく研究開発体制だ。先読みが必要なのは「アームが技術を開発してから、チップベンダーが採用し、最終製品になるまで3~5年かそれ以上かかる」(アーム日本法人の内海弦社長)ためだ。