「アウトソーシングは敗者」――。リーマンショックをきっかけに「脱・製造業」路線から「製造業回帰」や「製造業デジタル化」へと大転換した米ゼネラル・エレクトリック(GE)。同社のジェフ・イメルト会長兼CEOは、ソフトウエアの内製化にも舵を切った。GEがなぜ内製を目指したのか。その理由を解説しよう。

 「産業界の多くの企業が20年前に進めた『デジタル筋肉(マッスル)』のアウトソーシングが、今日には敗者であると我々は学んだ。今後、GEのすべての新規採用者はコード(プログラミング)を学ぶことになる。彼ら全員がソフトウエアを書けるようになるとは期待していないが、デジタルの未来における『可能性の芸術(アート)』は、必ず理解しなければならない」

 GEのイメルトCEOは2017年2月に公表した「株主への手紙」でこのように述べている。イメルトCEOが言う「デジタル筋肉(マッスル)」とは、ビジネスのデジタル化を推進する実行力という意味である。もっと具体的に言えば、ビジネスの変革に必要なソフトウエアを自ら開発する「ソフトウエア開発力」だ。

 「可能性の芸術(アート)」とは、ドイツ帝国の宰相ビスマルクの「政治とは可能性の芸術である」という言葉から来ている。イメルトCEOの意図としては「デジタルによって何が可能なのか、不可能なのか、全社員が理解できなければならない。そのためにはコードを学べ」といったところだろう。

 イメルトのこの考え方は、これまでの製造業の常識とは真逆だ。1980年代以降、世界中の大企業がソフトウエア開発のアウトソーシングを進めてきた。ソフトウエアを自社で開発するのではなく、コスト削減のために外部の企業、時にはインドや中国などの事業者に委託する。日本では今もなおソフトウエア開発のアウトソーシングが進行中で、たとえば2017年3月には三菱重工業が情報システム子会社をNTTデータに売却することを発表している。

かつてはアウトソーシング推進派だったGE

 GE自身もかつては熱心なアウトソーシング推進派だった。GEの社内情報システム部門を率いるCIO(最高情報責任者)であるジム・ファウラー氏は2016年11月にGEが開催したイベントで、GEがかつては情報システムの開発や運用の74%を外部の事業者にアウトソーシングしてきたと語った。それだけでなくGEは1990年代には、他社から情報システム関連業務を受託するアウトソーシング事業部門を作ってアウトソーシングビジネスを推進していたほどだった。

写真●米ゼネラル・エレクトリックのジム・ファウラーCIO(最高情報責任者)
写真●米ゼネラル・エレクトリックのジム・ファウラーCIO(最高情報責任者)
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 しかし現在、GEのイメルトCEOは「株主への手紙」で明言しているとおり、ソフトウエア開発のアウトソーシングを全面否定する。それだけでなく、今後は営業や財務、業務部門など部門を問わず、GEの社員が皆、プログラミングのなんたるかを理解し、デジタル化を実現する術すべを理解しなければならないとまで主張する。アウトソーシングからインソーシング(内製)へと、GEは大きく方針転換したのだ。

 GEのソフトウエア内製化の取り組みは徹底している。同社は2011年にシリコンバレーに近いカリフォルニア州サンラモンにソフトウエア開発拠点を開設。2017年までに2000人にも及ぶソフトウエア開発者やデータサイエンティスト、デザイナーといった「シリコンバレー人材」をかき集め、インダストリアルインターネットを実現するためのソフトウエアプラットフォーム「Predix」や、Predixを活用したアプリケーションの開発を進めている。