メインフレームは長年にわたって、企業の基幹システムを支えてきた。だが、経営環境が劇的な変化を遂げる中、このまま老朽化(レガシー化)したシステムを放置するのは、経営リスクを放置していることにほかならない。それに多くの経営者は気付き始めた。

 レガシー化とは、現状のシステム維持のコストが高止まりし、最新テクノロジーの恩恵を受けられない状態のことを指す。その結果、ベンダーロックインによる高額な保守・運用費など、システムの延命コストがIT予算を圧迫し、攻めのIT投資を阻害してしまう。しかも、担当エンジニアの高齢化、定年退職による要員不足や暗黙知の喪失などの課題は待ったなしで迫る。システム運用体制が脆弱化すれば、深刻な障害が発生しかねないことは容易に想像できる。

 加えて基幹システムには、規制やコンプライアンスに準拠するための速やかな対応や、既存ビジネスの売上増加や新規ビジネス創造への貢献が期待されるようになり、一層の柔軟性やスピードが求められている。同時に、働き方改革にみられるように社員の多様なワークスタイルやユーザビリティーに対応することも必要だ(図1)。

図1●レガシーシステムを取り巻く環境
図1●レガシーシステムを取り巻く環境
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 一方で、技術の発達は目覚ましい。DevOps、マイクロサービスやコンテナといった新しい技術概念が実用レベルになり、クラウドやオープンソースソフトウエア(OSS)を活用することで、さまざまな機能が今まででは考えられないコストとスピードで利用可能になっている。これらの“New IT”の恩恵を自社のビジネスに生かせないIT部門は今後、事業部門などから「社内のお荷物」とのそしりを免れ得ない。

 今は「モダナイゼーションの最後のチャンス」と言われている。だが、メインフレームを中心としたレガシーシステムのモダナイゼーションは、過去に何度も必要性が叫ばれてきた。実際にオープン化に成功したシステムがある一方で、今なお現役で稼働しているレガシーシステムも多い。

 それらは、「2000年問題」で大規模改修が必要となった第1次モダナイゼーションブーム、「2007年問題」と呼ばれたメインフレーム技術者の大量引退による第2次ブームという大きな節目をくぐり抜けた「最後のレガシー」とも呼べるシステムだ。長い年月をかけて自社のビジネスに最適な機能を作り込んできただけに、多くのユーザー企業ではオープン化に向けた方策が手詰まりとなっている。

 従来の手法を振り返りつつ、どのような失敗事例が散見されたのか、その背景にある日本企業固有の問題は何か、それを克服するにはどうすればよいのかについて述べていこう。

失敗も多いモダナイゼーション

 従来型モダナイゼーション手法は大きく、「プログラム改善」「ラッピング」「リプラットフォーム」「リライト」「リビルド」「リプレース」の六つに分けることができる(図2)。コストの発生状況や改修要望への対応スピードといったビジネスニーズへの適合状況、競合他社との差別化要素になる機能領域か否か、さらにシステム規模(コードボリューム)などのポイントを現状分析フェーズで明らかにした上で、各手法の中から選択することになる。

図2●従来型モダナイゼーション手法
図2●従来型モダナイゼーション手法
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