企業ネットワークに10年ぶりとなる大きな変革の兆しが訪れようとしている。Office 365に代表されるパブリッククラウドの急速な普及により、企業のIT基盤は抜本的な見直しを迫られている。これをチャンスとみた事業者やインテグレーターが「クラウド最適」をうたって積極攻勢を仕掛けている。その先兵となるのが「SD-WAN」。クラウドから端末まで、フラットにシンプルにつなぐ理想の企業ネットを目指した動きが今始まった。

 「なぜOffice 365がコミュニケーションツールの候補に挙がっていないのか」――。今や経営層や事業責任者からこう言われることが珍しくないくらい、企業におけるOffice 365の導入意欲が急速に高まっている。

 日本マイクロソフトによれば、日経225銘柄の約8割がマイクロソフトのクラウドを採用。そのほとんどがOffice 365のユーザーだという。同社マーケティング&オペレーションズ部門Officeマーケティング本部の輪島文シニアプロダクトマネージャーは、「この半年は、経営層や部門のリーダーが前倒しを決断して導入するケースが増えている」と話す。

 Office 365の販売パートナーの一社である大塚商会の技術本部TCソリューション部門テクニカルソリューションセンターMSソリューション課の野口靖貴シニアテクニカルスペシャリストも、「主にExchange Onlineを使いたいというニーズを受けて、導入実績は前年比100%増の右肩上がりの成長が続いている。自社でメールシステムの管理をしたくないという企業や、BCP(事業継続計画)対策でクラウドに移行したいという企業の採用が目立つ。同じ理由で、これまではコスト高になるとして様子見だった大企業の採用が増えている」と明かす。

日経225銘柄▲
日本経済新聞社が選んだ日本を代表する225の会社。日経平均株価の算出に使われる。
Exchange Online▲
Office 365におけるサービスの一つで、メール/グループウエアの機能。
大企業▲
ここではグループ全体で社員が約1万人の企業のこと。

レガシーな企業ネットとの不整合が生じる

 一方、ネットワークの観点からすると、Office 365の普及と活用の広がりは、企業ネットワークに極めて大きな影響を与えている。その証拠に、本誌読者モニターでクラウド型グループウエアを導入した企業の約半数がネットワークの見直しを実施していた(図1)。この結果について、日本マイクロソフト マーケティング&オペレーションズ部門Officeマーケティング本部の吉田馨一シニアプロダクトマーケティングマネージャーは、個人的な見解と前置きしたうえで、「実態に合っている真っ当な結果と感じた。オンプレ中心だった10年前と、クラウドやインターネットを活用する今とでは、ネットワークに対するニーズが全然違う。ネットワークの入れ替えはあってしかるべきだろう」と話す。

図1●本誌読者モニターの約半数がネットワークを見直した
図1●本誌読者モニターの約半数がネットワークを見直した
最も多かった回答が「インターネット接続回線の切り替え・増速」だった。
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 ではネットワークを見直すとなった際に、まずなすべきことは何か。前述の読者アンケートでは「インターネット接続回線の切り替え・増速」がトップだった。現場でも、「大企業は既にインターネットの帯域を目いっぱい使っているところがほとんど。そこにOffice 365のトラフィックが加わるわけだから、ほぼすべての企業が帯域を増強する」(大塚商会 技術本部TCソリューション部門テクニカルソリューションセンターMSソリューション課の池邉洋平テクニカルスペシャリスト)。

 ただし、それで終わりといかないところが、Office 365などSaaSの悩ましいところ。アプリケーション通信の流れが大きく変わり、インターネットの出口に当たるファイアウォールやプロキシにトラフィックが集中する。インターネットへの接続を本社/データセンターに一本化しているレガシーな企業ネットワークではこれが大問題となる(図2)。それにより、「メールが遅い」「応答が悪い」「つながらない」といったトラブルにつながることがあるからだ。しかもこれは、インターネット回線を増強すれば解決するという問題ではないことも厄介である。

図2●インターネットの出口がボトルネックに
図2●インターネットの出口がボトルネックに
トラフィックの流れが変わるため、インターネットの出口にあるファイアウォールやプロキシに大きな負荷がかかる。
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クラウド型グループウエアを導入した企業▲
「クラウド型グループウエアを導入していますか?」という問いに対し、「導入済み」が35.9%、「導入していない」が41.7%だった。導入の狙いは「運用の手間がかからない」(37件)が5割超を占めた(導入する方向で検討中の企業を含む)。