ここは、ネットワーク関連企業「BPネットワークス」が誇る本社の超高層タワービル…の地下3階、機械室の隣にある第二R&Dセンターである。壁にはセンター長からの、先月の呼び出しに関する通告が貼られていた。

レスリング部が廃部になってふさぎこんでいる片岡さん。そんな第二R&Dセンターに、いつものように吉田さんがやってきた。

吉田:はーい、みなさん。あら片岡さん、まだ元気がないようね。
矢田:レスリング部がなくなって、部長じゃなくなったって。
神崎: 元々平社員ですけどね。
片岡:ん?平社員がどうした?
神崎:ギクッ!あっ、今回の仕事は何ですか。
吉田:またN社からの依頼よ。片岡さんも、元気を出してお仕事、お仕事!
神崎:N社ならIoT▼ですね。
吉田:ええ。N社は無線LANでネットに接続するIoTデバイスを開発しているわ。
神崎:無線LANでアクセスポイント(AP)に接続して、IoTゲートウエイを介してサーバーにセンサーのデータを送る。よくある構成ですね。
吉田:でもね、電池駆動だから省電力性が求められているの。
神崎:省電力性?
吉田:平常時はスリープしているの。ある決まった時間になると起動して、無線LANでサーバーへデータを送信するのよ。
神崎:そうなると、スリープ時間をできるだけ長くしないと、電池が早く減りますね。
吉田:その通り。デバイスが1台だけなら、数秒程度で伝送が完了するの。1台のAPに最大200台程度を収容するのだけど、このまま数を増やしても大丈夫か、アドバイスが欲しいとのことなの。
片岡:多数のIoTデバイスが決まった時間に同時に送信すると、無線LANが混雑しそうだな。
吉田:その可能性はあるわね。
片岡:無線LANの規格は?
吉田:11g▼の54Mビット/秒。
片岡:送るデータ量は?
吉田:センサーのデータだから多くても100バイトぐらい。
神崎:伝送速度が54Mビット/秒なら、送信データ量が少ないので、大きな問題にならない▼のでは?
矢田:でも実効レートはもっと遅いでしょ。
片岡:TCP/IPのプロトコルやマイコン処理時間などのオーバーヘッドもある。
吉田:その辺りはN社も気付いているわ。それを含めてデバイスの数が増えたときに起こる現象やその対策を知りたいというのよ。
Internet of Thingsの略。
IEEE 802.11gのこと。2.4GHz帯の電波を使う。最大通信速度は54Mビット/秒。
54Mビット/秒の速度が常に確保できれば、100バイトは14.8マイクロ秒で伝送できる計算になる。デバイスが100個でも合計で1.48ミリ秒。200個でも3ミリ秒足らずとなる。そのため、神崎君は大きな問題にならないと考えた。