ここは、ネットワーク関連企業「BPネットワークス」が誇る本社の超高層タワービル…の地下3階、機械室の隣にある第二R&Dセンターである。神崎君は今日もまたIoTの勉強にいそしんでいる。その一方…。

この連載は、報道目的の実験を行い、その結果を掲載するものです。内容には十分注意をしていますが、記事内容を試すことは自己責任で行ってください。

片岡:zzzz…。

矢田:また片岡さんが居眠りしているわ。

神崎:う~ん?

矢田:どうかしたの?

神崎:IoTの無線には強くなった気がするんですが、全体が見えていないような気がして…。

矢田:そうね。無線はIoTの要素技術の一つにすぎないからね。じゃあ、IoTシステム全体の構築を体験してみたらどうかしら。

神崎:なるほど!それいいですね。

 そんなところへ例のごとく、吉田さんが箱を抱えてやってきた。

吉田:はーい、みなさん。あら片岡さん、またおねむ中なの?

片岡:ふぁ~。来てたのか?

吉田:相変わらずね。起きて起きて。お仕事よ。

神崎:あっ、その箱は「さくらの通信モジュール」ですね!これでIoTのシステムを組むのですか?

吉田:そうよ。今回のセンター長からの依頼は「セキュアでレスポンスの良いIoTシステムを構築せよ!」よ。

片岡:「セキュアでレスポンスが良い」か…。相反しそうな要求事項だな。

吉田:またまたIoTの開発をやっているN社からの依頼なの。N社はIoTゲートウエイを介して、エッジ側のデバイスとインターネット上のサーバーでやり取りするプロトタイプを開発しているわ。制御用途にも使いたいので、一定時間内に応答することが要求されているの。

N社が採用している3階層モデル
N社が採用している3階層モデル
IoTで最近よく見られる構成だ。インターネットを介してサーバーとゲートウエイが接続するので、暗号化が不可欠。しかし暗号化によってゲートウエイにかかる負荷が増えるため遅延が大きくなり、レスポンスが悪くなる。
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矢田:3階層モデルのIoTですね。「Raspberry Pi」などをIoTゲートウエイに使う、よく見るやる方だわ。

吉田:顧客の要求により、セキュリティの向上も求められたの。そこで、IoTゲートウエイとサーバーの通信をTLSで暗号化したら、そのぶんオーバーヘッドが増えて、遅延が大きくなり、レスポンスが悪くなったの。

片岡:そりゃ当然だろ。暗号化すればプロトコル上の手順は増えるし、暗号化と復号の手間が増える。IoTゲートウエイのCPUに大きな負荷がかかるはずだ。

矢田:パソコンのCPUならともかく、Raspberry PiクラスのCPUだと処理が重たそう。

片岡:さらに末端のデバイスとIoTゲートウエイの通信でも遅延時間が発生するし、レスポンスは悪くなって当然だろう。

神崎:でもIoTで、遅延とかレスポンスとか、あまり気にしないと思いますが。

▼IoT
Internet of Thingsの略。
▼Raspberry Pi
英国で教育用に開発された小型マイコン基板。ラズパイと略称で呼ぶことも多い。OSには、Raspberry Pi用Linuxである「Raspbian」の使用が推奨されている。主要モデルはNICや無線LANを搭載していて、簡単にネットワークに接続でき、IoTの実験によく使われている。
▼遅延時間が発生
デバイスとIoTゲートウエイの通信には、様々な接続方法があり、伝送速度や効率も様々である。このため大きさは一様ではないが、多かれ少なかれ遅延が生じる。