ここは、ネットワーク関連企業「BPネットワークス」が誇る本社の超高層タワービル……の地下三階、機械室の隣にある第二R&Dセンターである。社内外から持ち込まれたネットワークに関する疑問を、さまざまな実験や調査を通じて解明する謎の部署だ。部員の1人の片岡さんが今日も頭を抱えている。

 この連載は、報道目的の実験を行い、その結果を掲載するものです。内容には十分注意をしていますが、記事内容を試すことは自己責任で行ってください。

片岡:そろそろ吉田がセンター長からの依頼を持って来る時期だな。

矢田:そうですね。次はどんなテーマですかね。

神崎:…(ふん、どうせ古い技術なんだろうな)。

 そんな会話をしているところに吉田さんがやってきた。

片岡:ほら来た!

吉田:はーい、みなさ…ん?何でニヤニヤしているの?

矢田:そろそろ吉田さんか来るころじゃないかって、話してたんですよ。

片岡:で、今回は何だ?

吉田:神崎君、喜んで!今回のセンター長からの依頼は「LoRa変調はFSKより電波が飛ぶか確認せよ!」よ!

神崎:LoRa!LPWAだ!キター!

矢田:よかったわね。LoRaって無線の新技術よね?

神崎:はい。LPWAにはサブGHz帯を使うものが多いです。LoRaWANはその一つです。

IoT向け通信規格LPWA
IoT向け通信規格LPWA
電池駆動で少量のデータを長期間送れるLPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる無線通信のカテゴリーが注目されている。IoTの一用途である、大量のセンサーデバイスを使った情報収集に向く。
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片岡:実験で使うモジュールは?

吉田:ここにあるわ。実はLoRaWANじゃなくて、物理層にLoRa変調を使えるモジュールなの。FSKとLoRa変調を設定で切り替えることができる無線モデムなのよ。

LoRa変調とFSKに対応した通信モジュール
LoRa変調とFSKに対応した通信モジュール
アールエフリンクの「RM-92A」は、920 MHzのサブGHz帯で通信するモジュール。変調方式としてLoRa変調とFSKを利用できる。LoRa変調を使った場合は、仕様上見通しで約100kmの通信が可能となっている。
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矢田:LoRa変調?

▼LoRa
Long Rangeの略。LoRa自体は元々米セムテックが開発した変調技術で、低消費電力で長距離の無線伝送を可能にしている。これにLoRaアライアンスが策定している上位レイヤーのプロトコルを組み合わせたものがLoRaWAN。
▼FSK
Frequency Shift Keyingの略。デジタルの0と1を、異なる周波数の電波(搬送波)で表現する変調方式。初期の電話回線用のモデムなど、古くから使われている。
▼LPWA
Low Power Wide Areaの略。通信速度を抑えて、そのぶん低消費電力で遠距離でも通信可能な無線方式の総称。センサーデータのように少量のデータを送るのに向くため、IoT時代の無線技術とも呼ばれる。今回の実験で使うLoRa変調以外に、SIGFOXやWi-Fi HaLowなどがある。なお、4G/LTEのモバイル通信網を使ったLPWAとして、NB-IoTとLTE-M(eMTC)などが標準化した。
▼サブGHz帯
1GHzを切る周波数帯で、2.4GHz帯同様に免許不要で使用できる。日本では920MHz帯、欧州では863MHz帯、米国では915MHz帯が割り当てられている。2.4GHz帯よりも電波特性上遠くまで届きやすく、障害物を回り込みやすい。
▼使うものが多い
2.4GHz帯を使うものにIngenu(アンジェヌ)がある。米アンジェヌ社の技術で、国内でも長谷工アネシスが採用したスマートメーターで使われている。