電力広域的運営推進機関(広域機関)は2017年6月に、ある報告書をまとめた。全国の電力網の司令塔ともいうべき「広域機関システム」の開発トラブルを総括したものだ。

 広域機関は外部の専門家による第三者評価委員会を設置して、報告書を作成。プロジェクトの実態をつまびらかにした。そこには、システム開発を発注した広域機関と、受注した日立製作所の混乱の様子が記されていた。電力小売り全面自由化のスタート時に混乱の火種となった同システムの開発は、希にみる“凄惨”なプロジェクトだった。

 システム開発にトラブルは付きものだ。プロジェクトの実態と、広域機関の対策を他山の石としたい。

関係者35人、計70時間のインタビューで実態を明らかに

 広域機関システムは、電力の安定供給を担う中核システムである。全国の小売電気事業者と発電事業者が作成した計画を取りまとめ、一般送配電事業者が需要家に電気を送り届ける司令塔、すなわち広域機関の日々の基幹業務に用いる。

 このシステムの規模が、公募で開発案件を勝ち取った日立製作所の想定をはるかに超え、10倍近くに膨れ上がった。見込みの甘さと、システム仕様の変更が多発したことが規模膨張の要因である。本来であれば仕様変更に伴い修正するシステムの仕様書や、改定するプログラムの設計書も、プロジェクトの途中から変更内容が反映されず放置された。

 広域機関は、「間に合う」「何とかする」という日立からの報告を信じ切り、稼働見送りの決断が2016年4月の全面自由化のスタート直前までズルズルとずれ込んだ。さらに広域機関内では、業務ルールを定める部門とシステム開発を担当する部門の意思疎通がうまくいかず、システム品質の低下を招きかねないリスクがなおざりにされた。

 このように広域機関システムを巡るトラブルの原因は1つではなく、プロジェクトの随所に散在した。裏を返せば、システム開発プロジェクトを成功に導くうえで参考になる材料が、それだけ多い。

 混乱を招いた当事者の責任を改めて問うことは簡単だが、数多の落ち度を指摘するだけでは生産的とは言い難い。広域機関や日立の肩を持つつもりはないが、広域機関システムの開発プロジェクトを俯瞰して両者の失敗を予断なしに見つめ直し、疑似体験として取り込む。そうすることが、自社で開発・運用するシステムの品質向上につながるはずだ。