2018年はコードレスの一体型HMD元年になりそうだ。グーグルや台湾HTC、オキュラスVRら主要企業が相次ぎ製品を投入する。モバイルとハイエンドに分かれる現在のHMD市場から、その先行きを展望する。

 2017年5月、米グーグルは本社のある米マウンテンビューで開発者向け会議「Google I/O」を開催した。同社が特に力を込めて発表したのはモバイルAR(拡張現実)に関する新技術「Visual Positioning Service(VPS)」と「Google Lens」だった。VPSは室内での空間認識技術、Google Lensはスマートフォン(スマホ)で撮影した物体を自動的に認識する技術である。

一体型HMDでもグーグル流

 実は筆者を含めた業界関係者の注目を集めた製品は別にあった。同社のVR(仮想現実)事業責任者クレイ・ベイボー(Clay Bavor)氏がお披露目した、一体型ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)である。

Google I/Oで一体型HMDを発表するクレイ・ベイボー氏
Google I/Oで一体型HMDを発表するクレイ・ベイボー氏
(出所:米グーグル)

 グーグルの一体型HMDに筆者が注目した点は3つある。第一はグーグルらしく「プラットフォーム」を提供する事業者に徹するアプローチを取ったことだ。自らはポジショントラッキング(位置補正技術)など中核技術を開発・提供し、HMD自体の生産・販売はパートナーである台湾HTC(宏達国際電子)と中国レノボ・グループ(聯想集団)が担う。技術仕様を公開して対応するハードやサービスの開発パートナー企業を広く募るのもグーグル流。自陣営を一気に広げるのに効果的なアプローチであることは、スマホ向けOSのAndroidで実証済みだ。自らHMDを開発するオキュラスVRやソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とは事業形態が異なる。

 グーグルが一体型HMDの開発パートナーに選んだHTCとレノボは、いずれもスマホ分野で密接な関係にある。HTCはAndroid搭載スマホを長年開発・提供してきた。レノボはグーグルのAR向け基盤システム「Tango」に対応した初の一般向けスマホ「Lenovo Phab 2 Pro」の開発・販売パートナーである。

 第二の注目点は一体型HMDの機能や性能を決める半導体チップのパートナーとして、米クアルコムを選んだことだ。クアルコムは今やモバイルVR/AR分野で、米インテルも凌ぐ技術力を持つと筆者は見ている。

 Google I/Oではクアルコムとの提携内容は明らかにはならなかったが、その後の報道などによればグーグルはクアルコムが2017年2月に発表した一体型HMDのリファレンスモデル「Snapdragon 835 VR Development Kit(VRDK)」を基に開発を進めるようだ。Snapdragon 835 VRDKは6方向のポジショントラッキングと音方向調整、HMDの中でのアイトラッキング(視線追跡技術)、視野の中心部分だけを高画質に保つ高度なレンダリング技術など、様々な最新技術が詰まった開発キットである。

 インテルも一体型HMD開発プロジェクト「Project Alloy」を2016年8月に発表している。しかし開発パートナーを見つけられなかったことは前回の本連載で触れた通りだ。グーグル以外にもVRやARの様々なHMDメーカーがクアルコムのSnapdragon 835 VRDKを採用すると表明していることからも、一体型HMDの開発キット競争でクアルコムは完全にインテルを圧倒したと言える。

 最後の注目点は製品の発売時期だ。グーグルは2017年第4四半期(10~12月)に製品を発売すると言い切った。発売時期を明言したことに加えて、時期そのものも当時の大方の予想を覆すほど早かった。オキュラスVRがProject Santa Cruzを発表した2016年10月時点では、同社は発売時期を明言できなかった。HTCもSIEも一体型を開発していると噂されるが、明確な発売時期は現時点では不明である。グーグルが発売時期を明言したのは、VR/AR事業へのコミットの強さを示している。

米クアルコムが発表したSnapdragon 835 VRDKのリファレンスモデル
米クアルコムが発表したSnapdragon 835 VRDKのリファレンスモデル
(出所:米クアルコム)
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