今回はVR(仮想現実)の発展形であるAR(拡張現実)を取り上げ、デバイスおよび市場の現状を紹介する。市場規模はVRを上回るとの予測もあるARだが、現在は黎明期。ただ、次世代の主導権を巡って米国では新興企業にマイクロソフトやアップルといった大手IT企業も交えた開発競争が勃発している。

 VRはヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)などのデバイスを通じて「もう一つの現実」をユーザーに提供する技術。ARは現実世界の中に仮想世界を投影する技術である。Playstaion VRをはじめとした消費者が購入して手に取ることができるVR用HMDに比べ、ARはまだ一般向けに販売されているデバイスがほぼないため、消費者にとっては馴染みが薄いかもしれない。

 分かりやすいARの例は「ポケモンGO」だろう。2016年7月にサービスが始まって以来、全世界で7億5000万ダウンロードされたポケモンGOは、プレイヤーが街中にいるモンスターを捕獲、育成する必要がある。読者の中にもスマートフォンをかざしながら、レアなモンスターを探しに道路や公園をぐるぐる回った人も多いのではないだろうか。

図 「主要ARグラス(第一世代)」
図 「主要ARグラス(第一世代)」
(出所:各社発表資料による筆者まとめ)
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 ARが市場に登場したのはVRよりも早い。第1回で紹介したように主要なVR用HMDが一般向けに発売され始めたのは2016年だが、一般向けのARグラスの登場は2012年ごろのことだ。これらはいわば、第一世代のARグラスと言える。

 第一世代の代表的な製品が、米グーグルが2012年4月に発表した「Google Glass」だろう。発売は2013年2月で、価格は1500ドル(約16万円)。開発者向けだった。

 発表時、グーグルはGoogle Glassを消費者が日々の生活で使えるものと位置付けていた。音声入力で目的地への道順をGoogle Mapで検索したり、利用者が見たものを自動認識して関連する情報をネットから取得・表示したりといった利用シーンを、コンセプトビデオで紹介していた。

 しかし実際にはバッテリーの問題、画像認識の精度など様々な課題があり、発売されたGoogle Glassの性能はコンセプトとはほど遠かった。同社は2015年1月には一般向けの発売は休止し、再び研究開発フェーズに戻した。あのグーグルが発売した製品ということで日本のメディアでも多く取り上げられ、消費者の注目を集めたが、同社が目指したことは当時のテクノロジーの限界を超えていたということだろう。