VR(仮想現実)技術の応用分野として、いま最も活発なのが医療分野での応用だ。提供側のIT企業だけでなく、利用側の病院が新しいVR技術を積極的に取り込んでいる。患者の治療支援や医師の教育、人体の精緻な3次元(3D)モデルを使った手術支援、脳とVRを結んだ難病患者の生活支援と、幅広い応用が進む。VRが開く医療革命の最前線を紹介しよう。

 ロサンゼルスにある1902年創立の病院Cedars-Sinai Medical Centerは、治療や手術に伴う痛みや不安を和らげるゲームやリラックスできる映像を、VRヘッドセットを通じて体験するシステムを患者に提供している。VRベンチャーであるアプライドVR(AppliedVR)が開発したシステムで、複数の病院が試験導入している。

 同病院は大企業とベンチャー企業を結びつけて新規事業の創出を促す取り組み、いわゆるアクセラレータープログラムを運営する企業のテックスターズ(Techstars)と協業。医療分野に特化したプログラムを2016年初めから実施している。同プログラムは既に2期18社を輩出しており、アプライドVRは第1期生だ。

アプライドVRのシステムを体験する患者
アプライドVRのシステムを体験する患者
(出所:アプライドVR)
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 例えば手術前で不安を抱える患者には、リラックスできる映像と音楽を体験してもらう。治療中だったり治療後の痛みで苦しんだりしている患者には、痛みを紛らわすゲームを提供する。同病院で試したところ、アプライドVRのシステムを使った患者のうち痛みが和らいだと答えた割合が25%、不安やストレスが緩和したと答えた割合が60%に上った。

 現在、VRヘッドセットを提供した韓国サムスン電子は、アプライドVRが同システムを病院へ売り込むのを支援している。既に約120の病院がテスト導入の意向を表明済みだ。特に小児科での効果が期待されている。

弱視の治療にVRゲーム

 サンフランシスコに本社を構えるビビッド・ビジョン(Vivid Vision)は、弱視をはじめとする視覚障害の治療にVRを活用している。子どものころからゲームが大好きだった創業者のジェームズ・プラハ(James Plaha)CEO(最高経営責任者)自身、視覚障害に悩んでいた。治療のためにVRゲーム「Diplopia」を開発。約一年試したところ、自らの視覚障害が大幅に改善したという経験を持つ。