本特集の第1回・第2回で紹介したように、総務省は2015年7月、携帯データ通信の実効通信速度の測定方法をガイドラインとして公表した。携帯大手3社は2015年度からこの方法に基づき全国1500地点で測定し、現在までに2カ年分の結果を公表している。

 同じ頃、「格安スマホ」とも呼ばれるMVNO(仮想移動体通信事業者)業界では、サービスの広告宣伝や商品パッケージにある変化が起こっていた。ガイドラインの制定以降、「下り最大△△Mbps(ビット/秒)のLTE通信に対応」といった、最大通信速度を訴求するような宣伝文句を一つひとつ削除していったのだ。

 一方で、「FREETEL」を提供するプラスワン・マーケティングが消費者庁の行政処分を受けるなど、消費者保護の観点から規制当局がMVNOの広告表現に注視する状況が生まれている。

 総務省も広告におけるMVNOの速度表示には重大な関心を払っている。速度計測方法を確立するための実証実験の予算を確保しており、2017年度中に業界団体が主体となって実験が行われる予定だ。その狙いは、MVNOも携帯大手と同様に、信頼できる実効速度を広告で打ち出せるよう後押しすることにある。

 特集の第3回は、携帯電話の通信速度の広告表示で起こった変化と、MVNOの実効速度を計測・表示する動きを紹介する。

最大速度を訴求するなら「実効速度」も必ず併記する

 そもそも、総務省が携帯データ通信の速度測定のガイドライン化に動いたのは、携帯電話大手の通信速度に関する広告表現を巡って利用者からの苦情が増えていたことがきっかけだ。特にLTEサービスの開始以降、「通信速度150Mビット/秒なのに動画がカクカクするのはなぜか」など、通信速度が利用時の体感と異なることへの苦情が急増していた。

 当時、一般消費者の間では携帯電話がベストエフォート型サービスだという理解が不十分。理論値である最大速度とサービス利用時の通信速度の大きなかい離がある種の消費者問題として注目を集めたのだった。

 ガイドラインを制定した総務省の狙いは、誤解の元になる最大速度だけを記載する広告宣伝手法は止めてもらい、業界共通の方法で測定した実効速度も併記させることにあった。総務省のこうした意思を受けて、電気通信事業者協会など通信4団体で構成する「電気通信サービス向上推進協議会」は、通信速度を表示する際の広告表示方法を業界の自主基準としてまとめた。

 その内容は「電気通信サービスの広告表示に関する自主基準及びガイドライン」の改訂版として、2015年11月に公表されている。主な改訂点は、携帯データ通信サービスの広告で「規格上の最大速度(原文は最高速度、以下同)について強調表示や積極的な表示を行うときは、各事業者が計測した実効速度も適正に表示する」と定めたことだ。実効速度の「適正」な表示方法についても具体的に定めている。

 ここでポイントになるのは、広告で「最大速度について強調表示や積極的な表示を行うとき」と、今回の自主基準が適用されるケースを限定したことだ。

 このケースに該当する最近の一例が、規格上の最大速度788Mビット/秒である「PREMIUM 4G」を紹介した、NTTドコモの自社Webサイトだ(写真1)。ビジュアルに「受信時最大788Mbps(ビット/秒)を2017年8月以降提供開始」と新サービスを訴求している一方で、詳しい説明文の中では実効速度を説明した一節を加えている。太い文字で「受信実効速度は97Mbps~162Mbpsです」などと記したのは、広告自主基準に従った表記方法だ。

写真1●最大788Mビット/秒のPREMIUM 4Gを訴求するNTTドコモの自社サイト(左)では、下の説明文に実効速度を併記した(右)
写真1●最大788Mビット/秒のPREMIUM 4Gを訴求するNTTドコモの自社サイト(左)では、下の説明文に実効速度を併記した(右)
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