携帯電話大手3社は総務省ガイドラインに基づいた実効速度の計測に当たり、相当な労力を費やしている。計測場所は全国10都市の1500地点に達し、調査に2カ月程度かかる。資本力のある大手3社だからこそ成り立っていると言え、MVNO(仮想移動体通信事業者)に同様な調査を求めるのは酷な面がある。

計測の負荷は「300人日に相当」

 総務省ガイドラインで規定する主な計測条件は以下の通り。まず計測場所は、政令指定都市と県庁所在地を人口規模に応じ、「人口50万人未満」、「人口50万人以上、100万人未満」、「人口100万人以上」の3つに分類。中立的機関がそれぞれから3都市を選び、東京都特別区を加えた全国10都市をランダムに選ぶ。さらに日本全国を500メートル四方のメッシュに区切り、10都市で計300メッシュ(常住人口に応じて傾斜)を抽出。メッシュ当たり5地点(ランダムに選定)で計測するため、合計1500地点となる。

総務省ガイドラインの概要
総務省ガイドラインの概要
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 計測には、米FCC(連邦通信委員会)が公開するソフトをベースに総務省が作成したアプリを利用する。同アプリをスマートフォンにインストールし、同一地点で上りと下りの実効速度(実際には位置や時間、通信規格、端末情報、信号強度、遅延、パケットロスなども収集)を3回計測し、平均値を採用する。アプリを実行すると、結果が自動的にサーバーに登録されるため、それほど手間ではない。計測地点当たり10分程度で終了するという。ただ、事前の準備や移動の時間も考慮すると、「計測は1日当たり1メッシュが目安。計300メッシュなので稼働は300人日に相当する」(ある携帯電話事業者)。

 計測時間も決まっている。オフィス街と繁華街は午後0~6時、住宅街は午後3~9時。住宅街の場合、日没の早い冬場に暗がりでスマートフォンを操作していると周辺の住民に不審に思われるため、計測員は何の目的でどのような調査を実施しているかを説明した証明書を携行しているという。1人だけではトラブルに巻き込まれた際の対処が心配なため、ペアで動くことが多いようだ。稼働はさらに膨れ上がる。

 大手3社はこれだけの手間をかけて集計した実効速度を併記することで、初めて広告などに規格上の最高速度を表示できるようになる。もっとも、広告などで最高速度を表示しないのであれば、実効速度を計測しなくて構わない。ただ、「端末の仕様として最高速度を表示しないわけにもいかない」(ある携帯電話事業者)ため、大手3社とも実効速度の計測をやめることは考えていない。

 だが、MVNOにとっては、広告に最高速度や実効速度などを数行表示するためだけに1500地点で計測するのは「どう考えても割に合わない」(大手幹部)。それならば「最高速度をうたってはならないとなってもやむを得ない」(同)という声まで出ている。実効速度に自信があるMVNOとそうでないMVNOでも温度差がある。