携帯電話大手3社は携帯電話の実効速度を計測し、その結果を公表している。最近ではすっかり沈静化したが、LTEの高速化に伴い、各社が競い合うようにスピード自慢を展開。なぜか大手3社がそろって「ネットワークNo.1」を主張する不思議な状態になり、「最高速度と実効速度がかい離している」「契約時の説明と違って通信速度が出ない」といった苦情が増加する結果を招いた。

 そこで総務省はユーザーが正確な情報に基づいて契約できる環境を整えるべく、2013年11月に「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」を開催。2015年7月には「移動系通信事業者が提供するインターネット接続サービスの実効速度計測手法及び利用者への情報提供手法等に関するガイドライン」を定めた。同ガイドラインに基づいた取り組みが、冒頭で触れた実効速度の計測、公表になる。

 大手3社が現在公表中の計測結果は2016年度実施分(2回目)。2015年度実施分(1回目)に比べ、総じて改善している。3CC(Component Carrier)、256QAMの変調方式、4×4 MIMOなどの導入で高速化が進んだほか、体感速度を高めるチューニングを地道に積み重ねてきた効果が大きい。計測期間はNTTドコモが2016年10~12月、KDDI(au)が2017年1~2月、ソフトバンクが2017年2~3月。以下では、当時の状況を振り返りながら計測結果を考察したい。

高速化エリアの充実度で差

 まず下りで改善が目立ったのは、NTTドコモである。中央値に近い半数(25%値~75%値、広告に表記する範囲)は、Androidが97M~162Mビット/秒、iOSが88M~146Mビット/秒に達し、他社を大きく上回った。2GHz帯(112.5Mビット/秒)と1.7GHz帯(150Mビット/秒)、800MHz帯(112.5Mビット/秒)を組み合わせて375Mビット/秒を実現するエリアが広がり、実効速度を大幅に底上げした。

総務省ガイドラインに基づいた実効速度の集計結果(下り、単位はMビット/秒)
総務省ガイドラインに基づいた実効速度の集計結果(下り、単位はMビット/秒)
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 競合他社も高速化の取り組みを進めているが、エリア展開が過渡期になる。例えばKDDIは、2GHz帯(150Mビット/秒)と2.5GHz帯(220Mビット/秒)を組み合わせて370Mビット/秒を実現するエリアを急ピッチで広げている。だが、計測場所が同エリアに該当しなければ最高速度は225Mビット/秒(2GHz帯の150M/ビット秒と800MHz帯の75Mビット/秒の組み合わせ)または220Mビット/秒(2.5GHz帯)となり、高速化エリアの充実度が差につながっている。

 かたやソフトバンクは保有する周波数幅こそ最も多いが、3Gの帯域がまばらに残り、高速化の展開に苦しむ。現状では、900MHz帯(75Mビット/秒)と1.7GHz帯(75Mビット/秒)、2GHz帯(112.5Mビット/秒)を組み合わせた262.5Mビット/秒のエリアが中心。計測場所が同エリアに該当しなければ、最高速度は187.5Mビット/秒または150Mビット/秒である。TD-LTE(SoftBank 4G)をつかんだ場合も165Mビット/秒(2.5GHz帯)だ。

 なお、同社は2016年10月に256QAMの変調方式を導入したことにより、FDD-LTE(SoftBank 4G LTE)は350Mビット/秒、TD-LTE(SoftBank 4G)は234Mビット/秒にそれぞれ高速化したが、対応エリアは限られる。さらに256QAMの変調方式は電波の状態が良くないと効果が出ないことを踏まえると、今回の計測における貢献は少ないとみられる。そもそもスペック勝負で他社に後れを取っており、それにもかかわらずKDDIとそん色ないレベルにとどめている状況はむしろ驚くほどだ。